既にクローン人間は誕生している。まあ、現在の科学技術の言う処の「クローン」とは、SFなどで話題とされるような、「生命を無から作り出す」というモノとは程遠いため、各国政府の対応も(一応、法規制をしている国もあるが)あまり本気ではないように感じられる。科学はしばしば「禁忌」に触れるような分野で大きく発展することが多いから、まだしばらくは脅威にならなそうな技術は科学者の自由にさせておいた方が国益になる、という考えがあるのかもしれない。しかし恐らく、脅威に気付いた時には既に手遅れだろう。
クローン技術が一般人に嫌われる大きな原因は、確かに純粋な人間とは異質なはずなのに、表面上、純粋な人間とまったく変わらないような人間が作れてしまう可能性がある、ということだろう。誰だって自分のドッペルゲンガーを見たら嫌な気分になる。クローン技術には、そんな怪奇現象のようなことを現実化するだけの力がある(と、少なくとも考えられている)。
もう一つ、脅威に感じるのは、いかにも漫画的発想ではあるが、クローン人間で世界が埋め尽くされたらどうしよう、というものではないか。ここでは一定の条件の元で、クローン人間がどのくらい増えていくのかをシミュレートしてみることにする。
まず、クローン人間が量産体制に入るのを2030年としよう。そして、年間に作り出されるクローンは1000体とする。これは、仮にクローンが法的に認められたとしても、人口問題その他から、かなりの厳しい審査が課せられると予想するからである。そしてクローンには基本的人権が認められる。したがって、結婚して子供を産むことも出来るとする。簡単のため、28・32・36歳で子供を一人ずつ産み、75歳で死ぬものとする。またクローン同士では結婚はしなく、クローンと純粋人間の子供はクローンと考える。
すると彼らの人口推移は下のようになる。
西暦 生産数 出生数 死亡数 人口
2030 1000 0 0 1000
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2057 1000 0 0 28000
2058 1000 1000 0 30000
2059 1000 1000 0 32000
2060 1000 1000 0 34000
2061 1000 1000 0 36000
2062 1000 2000 0 39000
2063 1000 2000 0 42000
2064 1000 2000 0 45000
2065 1000 2000 0 48000
2066 1000 3000 0 52000
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2085 1000 3000 0 128000
2086 1000 4000 0 133000
2087 1000 4000 0 138000
2088 1000 4000 0 143000
2089 1000 4000 0 148000
2090 1000 6000 0 155000
2091 1000 6000 0 162000
2092 1000 6000 0 169000
2093 1000 6000 0 176000
2094 1000 9000 0 186000
2095 1000 9000 0 196000
2096 1000 9000 0 206000
2097 1000 9000 0 216000
2098 1000 11000 0 228000
2099 1000 11000 0 240000
2100 1000 11000 0 252000
2101 1000 11000 0 264000
2102 1000 12000 0 277000
2103 1000 12000 0 290000
2104 1000 12000 0 303000
2105 1000 12000 1000 315000
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2113 1000 12000 1000 411000
2114 1000 13000 1000 424000
2115 1000 13000 1000 437000
2116 1000 13000 1000 450000
2117 1000 13000 1000 463000
2118 1000 16000 1000 479000
2119 1000 16000 1000 495000
2120 1000 16000 1000 511000
2121 1000 16000 1000 527000
2122 1000 22000 1000 549000
2123 1000 22000 1000 571000
2124 1000 22000 1000 593000
2125 1000 22000 1000 615000
2126 1000 29000 1000 644000
2127 1000 29000 1000 673000
2128 1000 29000 1000 702000
2129 1000 29000 1000 731000
2130 1000 35000 1000 766000
2131 1000 35000 1000 801000
2132 1000 35000 1000 836000
2133 1000 35000 2000 870000
2134 1000 38000 2000 907000
2135 1000 38000 2000 944000
2136 1000 38000 2000 981000
2137 1000 38000 3000 1017000
2138 1000 39000 3000 1054000
2139 1000 39000 3000 1091000
2140 1000 39000 3000 1129000
2141 1000 39000 4000 1165000
2142 1000 40000 4000 1202000
2143 1000 40000 4000 1239000
2144 1000 40000 4000 1276000
2145 1000 40000 4000 1313000
2146 1000 44000 4000 1354000
2147 1000 44000 4000 1395000
2148 1000 44000 4000 1436000
2149 1000 44000 4000 1477000
2150 1000 54000 4000 1528000
2151 1000 54000 4000 1579000
2152 1000 54000 4000 1630000
2153 1000 54000 4000 1681000
2154 1000 70000 4000 1748000
2155 1000 70000 4000 1815000
2156 1000 70000 4000 1882000
2157 1000 70000 4000 1949000
2158 1000 89000 4000 2035000
クローンが100万人を超えるのは生産され始めてから100年以上経ってからである。しかし100万から200万になるのにはわずか20年程度しか要していない。ところが、これは今までの(人間の人口増加の)歴史から見て、けっして驚くべきスピードではない。それは、クローン一体あたり、子孫を3人しか残さないと仮定したからである。というのも、クローンを持つのは一部の上流階級だけと考えられ、そのクローン自身もある程度は経済的に苦しくない階級に属すると思われるからである。ところが、時間が経てば、そんな仮定は崩れ、クローンが貧困層に属するようにもなるだろう。すると恐らくクローンにも多産の傾向が見られ、やがてはクローンの人口爆発に至ると考えられる。上の表のスピードはあくまでも最低限のものでしかないのである。