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『蜂』シリーズ4 〜ミツバチは複素数平面を理解している

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ミツバチは高校数学の複素数を非常に有効に利用している。

ミツバチのコミュニケーション方法の一つとしてミツバチダンスという物が有る。主に餌の位置を仲間に知らせる為に使用される情報伝達手段の事だ。ミツバチダンスの存在は1973年に発見され、この功績でフォン・フリッシュ博士はノーベル賞を受賞している。

ミツバチの食料は花の蜜だ。従って大量の花を見付けた場合、多数の働き蜂が蜜を取りに行く必要性が出て来るが、当然その場所は発見者しか知らない。そこで発見者は巣に居る他の働き蜂に、その場所を教えなければならない。ここでコミュニケーションを取る事になる訳だ。

花の場所を教える為に、ミツバチは『場所』を二つの要素に分割している。即ち、『距離』と『方向』である。これは数学の複素数平面で、特定の座標を表現する為に絶対値と偏角を用いる“極座標形式”の考え方を利用している。人間が高校2年生で習う理論形態をミツバチは(1ヶ月の寿命の中で)使用している訳だ。では具体的にどのような方法でミツバチは『距離』と『方向』を伝達しているのか? ここではセイヨウミツバチを例にとって説明する。

ミツバチダンスには大きく分けて二つの種類が存在する。『円舞』と『尻振りダンス』である。後者は『8の字ダンス』とも呼ばれる。通常、ミツバチダンスとは8の字ダンスを意味する。

円舞とは、餌が巣から半径100メートル以内に在る時のみ踊られる、極々単純なダンスの事だ。この場合、巣に居る他のミツバチたちは特別な情報を受け取る事無く、餌を探しに行く事になる。「近距離に餌が在る」という事さえ分かれば、後は実際に探した方が早い、という事なのだろう。

一方、8の字ダンスは二種類の行動から構成されている。8の字の中心で尻を振りながら真っ直ぐに進む、という行動と、尻振りのスタートの位置まで弧を描いて戻ってくる、リターンランと呼ばれる行動である。前者の行動が『距離』を、後者の行動が『方向』を表す事が分かっている。ではミツバチはどうやって具体的な情報を察知するのか?

餌の発見者はミツバチダンスの第一段階として尻振りを行うが、その際に250Hz位の高さの音が発せられる。通常の“ド”よりも1オクターブ低い音だ。実はこの音の発せられる長さが餌までの『距離』を表している。音が1秒続くと巣から600メートル、2.5秒だと2500メートル、という具合である。時間と距離は比例関係ではない事に注意して欲しい。これだと僅かな時間の差で『距離』に大きな差が出て来てしまい、距離情報を正確に伝達する事が困難なように感じられるかも知れないが、実は昆虫は微細な時間を察知するのには非常に優れており、このような僅かな時間差を利用したコミュニケーション方法は決して珍しくない。例えば蛍は一回の発光時間によって互いの種族を識別している。

次に発見者はミツバチダンスの第二段階である8の字運動(リターンラン)を行う。この時、発見者は(その時刻の)太陽の方角を利用して餌の方向を仲間たちに伝えている。具体的には、餌の在る方向を反重力方向(つまり、真上)に置き換えて太陽の方角を示す事により、餌の『方向』を表している。これは例えば、真上に向かって尻振りを行えば餌は太陽の方角に在る、という事を意味している。これは数学では座標軸変換、或いは複素数空間に於ける回転に相当する行為である。

ところで、曇りの日は太陽が見えない。そのような場合はどうやって餌の位置を他の仲間たちに伝えるのだろうか? この問題を解決するのが体内時計(サーカディアンリズムとも言う)の存在である。サーカディアンリズムについては次回、説明する。


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