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『蜂』シリーズ7 〜娘よりも妹を欲しがる働き蜂

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働き蜂にとっては娘よりも妹の方が大切な存在である。

ミツバチが利他行動に至る重要な要因は血縁度である事は前回説明した。血縁度とは“ある特定の個体が持つ特殊な遺伝子を、その血縁個体が受け継ぐ確率の高さ”を意味する。父と母を必ず持つ動物であれば、親子間(父と息子など)の血縁度は1/2である。兄弟姉妹間の血縁度は、父の特殊遺伝子を共に有する確率が1/4で、母の特殊遺伝子を共に有する確率も1/4なので、やはり血縁度は1/2である。(実は父親が違う、というような特殊な場合は異なる。)ところがミツバチは受精卵が全てメスになり、未受精卵がオスになるという特殊な性決定方式を採用している為に、血縁度の計算が少々厄介なのである。幾つか例を取って見てみる事にする。

ここで注意しておきたいのは、一つのミツバチの群れ(コロニー)内に於いては、殆どのミツバチが兄弟姉妹の関係にある、という事だ。ミツバチは女王蜂の陰謀により、女王蜂自身しか産卵しない。従ってコロニー内の全てのミツバチは女王蜂が母親なのである。

これによれば、働き蜂と女王蜂との血縁度は1/2となる。働き蜂は全てメスであるから両親が共に存在する為、働き蜂と女王蜂の関係は通常の母娘関係と(子供を産まないように仕向ける以外は)変わらないからだ。難しいのは働き蜂同士の血縁度である。2匹の働き蜂が母である女王蜂の特殊遺伝子を共に受け継ぐ確率は1/4である。これは一般的な動物と同じだ。ところが、2匹の働き蜂が父の特殊遺伝子を共に受ける確率が厄介なのだ。

働き蜂の父親は勿論オス蜂という事になる。ここで女王蜂は自コロニー内のオス蜂とは交尾をしない(詳しくは次回以降に解説する)ので、「父親の遺伝子に母親の遺伝子が混じっているのではないか?」という事を心配する必要は無い。しかしオス蜂には父親がいない為、その母である女王蜂の遺伝子をそのまま受け継ぐ事になる。(つまり、オス蜂から見た女王蜂の血縁度は1。)この際、女王蜂の遺伝子を全て受け継ぐといっても、それはオス蜂の遺伝子を全て女王蜂も持っているというだけで、女王蜂の特殊遺伝子一つ一つが全て息子に遺伝している訳ではない。実はオス蜂は遺伝子の数がメスの半分しか持っていないのである。この事からオス蜂は『半数体』と呼ばれる。従って、オス蜂の遺伝子はその全てが娘に伝わる事になる。この事から、2匹の働き蜂が父の特殊遺伝子を共に受け継ぐ確率は1となる。しかし量が半分しかないので血縁度としては1/2だ。

以上より、働き蜂同士(姉妹間)の血縁度は1/4+1/2=3/4となる。なんと母娘の関係よりも姉妹の関係の方が濃い、という事になるのだ。働き蜂にとっては母である女王蜂よりも、他の働き蜂の方が大切である。

この事実は女王蜂により産卵する権利を奪われた働き蜂たちの細やかなる抵抗のようにも思える。しかしこれすらも女王蜂にとっては有利に働いているのである。

母娘間の血縁度が姉妹間の血縁度よりも低いという事実は、もしも働き蜂が娘を産めたとしても、娘より他の働き蜂の方が大切であるという事も意味する。つまり働き蜂は自分の娘を産むよりも女王蜂に妹を産んでもらった方が、遺伝子的には有利という事だ。

天すらも女王蜂に味方するという事なのか。働き蜂が報われる日は遠い。


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