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数学の答案に於ける厳密性

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数学の答案を書く時によく「数学は厳密性に注意して解答を書きなさい」と言われる。数学が学問の中で最も厳密性が要求される事に異論がある人はいないだろう。だからこそ、数学の答案に厳密性が求められるのは当然の事である。しかし僕はこの“厳密性”という言葉が“曖昧に”使われているように感じる。皮肉なものだ。

数学の答案に於ける厳密性というのは2種類に分類出来る。即ち『表記の厳密性』と『論理の厳密性』である。

『表記の厳密性』というのは例えば『証明問題は仮定・結論・証明の順に書く』とか『問題で設定されていない文字を使う場合は答案内で設定する』とか『解は最後に分かり易いように書く』といった物だ。中学生になるといきなりそんな事を言われて「なんで数学の答案に日本語なんか書かなきゃいけないんだ?」とか思いつつも仕方なくそれに従ったりするのである。『論理の厳密性』というのは言葉での説明が難しいが、強いて言えば『どんなに小さく些細な物でも確率が0%でない限りは全て考慮に入れる事』とでもなろうか。僕はよく『どんなに頭の良い奴にも突っ込みを入れられない状態を作る事』という表現をしている。『どんな屁理屈も通させないようにする事』と言う方が通りが良いとは思うのだが、一般には“屁理屈”という言葉にはネガティブな意味合いを含むので、僕は使いたくない。(←個人的にはネガティブな意味での理屈など存在しないと考えているから)

実は学問としての数学が要求している“厳密性”とは、『論理の厳密性』だけである。表記というのは表層的な物でしかなく、数学的には全く価値が無いからだ。例えば数学的には「僕は〜〜だと思う」という情報は全くの無価値である。但し、メタレベル、つまり『「僕は〜〜だと思う」という情報が有る』という情報には数学的にも価値が有る。

数学には表記法は全く必要無い。しかし現実には数学をやる事に於いては“情報の伝達”が不可欠である。数学の試験であれば採点者に「自分はこれだけの事が分かっている」という事を伝えなければならない。そこで初めて数学にも表記法が必要となってくる。が、そこで必要な表記には『表記の厳密性』は必要無い。それは数学の範疇ではないからだ。強いて言えば「相手に分かれば良い」となる。

以上より、「数学は厳密性に注意して解答を書きなさい」の中の“厳密性”という言葉を“厳密に”解釈すると、「数学はあなたが『論理の厳密性』をきちんと守っている事が採点者に伝わる様に注意して解答を書きなさい」となる。ところが日常言われる「数学は厳密性に注意して解答を書きなさい」という言葉は明らかに『表記の厳密性』と『論理の厳密性』の両方を求めている。僕が“厳密性”という言葉が“曖昧に”使われていると感じるのは、この部分である。

数学で求められている“厳密性”とは、厳密に解釈すれば、『論理の厳密性』だけである

しかし、実際の数学の試験によっては『表記の厳密性』も無視出来ない。試験というのは学問として要求されている要素を試している訳ではないからだ。

では、どのような試験が『表記の厳密性』も要求し、どのような試験は要求しないのか。この差は採点者が数学を専門としているか否かだと考えて良い。数学を専門的にやっている人は『論理の厳密性』だけを重視するからだ。一方で数学の専門的な教育を受けていない人の多くは『表記の厳密性』と『論理の厳密性』の両方を重視する教育しか受けていない可能性が高いので、採点時にも同様の立場に立つ。

「数学を専門としている」というのは「大学で数学を専攻したかどうか」と考えるべきだろう。中学校や高校の数学の教師は大半が数学を専攻していた訳ではないだろうから、この意味では数学を専門としている訳ではない。従って基本的に中学・高校の定期試験では『表記の厳密性』を遵守しなければならない。大学に入っても理系や経済学部なら教養科目として数学が有る事が多い。ここでも教官が数学系の学科に所属している訳ではないなら『表記の厳密性』に気をつけておいた方が良い。

判断が難しいのは大学受験の場合だ。塾や予備校では受験生に対して“『表記の厳密性』は必要無い”という立場で数学を教えている所も割と多い。確かに受験先の大学に数学科やそれに類する学科が有る大学では“『表記の厳密性』は必要無い”と思う。そういう大学では数学を専門としている教授が数学の採点をするからである。しかし数学科が無い大学では“『表記の厳密性』は必要無い”とする塾や予備校の言う事を鵜呑みにするのは危険だと思う。(ただ数学科が無い大学では、そもそも記述式の試験でない可能性が高いと考えられる。)

という事で結論。

世の中の大半の数学の試験では『表記の厳密性』を無視するのは危険。


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