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我孫子武丸

HOBBY MAIN

タイトル 出版社 初版日 勝手な採点 通販
8の殺人 講談社文庫 1992年03月15日 ★★★☆ 購入
0の殺人 1992年09月15日 ★★★☆ 購入
メビウスの殺人 1993年05月15日 ★★★★ 購入
探偵映画 1994年07月15日 ★★★☆ 購入
人形はこたつで推理する 1995年06月15日 ★★☆ 購入
人形は遠足で推理する 1995年07月15日 ★★★☆ 購入
人形は眠れない 1996年04月15日 ★★★ 購入
人形はライブハウスで推理する 2004年08月15日 ★★★★ 購入
かまいたちの夜 特別篇 チュンソフト 1998年12月20日 ★★★ 購入
あなただけのかまいたちの夜 1995年08月25日 ★★★☆ 購入
かまいたちの夜2オリジナルノベルズ 三日月島奇譚 2002年07月31日 ★★☆ 購入
あなただけのかまいたちの夜2 2003年04月17日 ★★★★ 購入
殺戮にいたる病 講談社文庫 1996年11月15日 ★★★★★ 購入
腐蝕の街 双葉文庫 1999年02月20日 ★★☆ 購入
屍蝋の街 2002年10月20日 ★★☆ 購入
たけまる文庫 怪の巻 集英社文庫 2000年05月25日 ★★★★ 購入
たけまる文庫 謎の巻 2000年07月25日 ★★★☆ 購入
ディプロトドンティア・マクロプス 講談社文庫 2000年06月15日 ★☆ 購入
まほろ市の殺人 夏 祥伝社文庫 2002年06月20日 ★★☆ 購入
三人のゴーストハンター 国枝特殊警備ファイル チュンソフト 2002年09月06日 ★★★☆ 購入
少年たちの四季 集英社文庫 2003年02月25日 ★★★☆ 購入

8の殺人

一言

『密室講義』が興味深い。

目次

プロローグ
第一章 恭三、出動する
第二章 恭三、色香に惑う
第三章 慎二、意見を述べる
第四章 慎二、リアリストであることを告白する
第五章 恭三、高校の授業を思い出す
第六章 いちお、犯人を指摘する
第七章 慎二、『密室講義』を試みる
第八章 恭三、手話の勉強を始める

梗概

“8の字形の屋敷”ゆえに案出された、不可解極まる連続殺人。速水警部補と推理マニアの彼の弟&妹の三人組が挑戦するが、真相は二転三転また逆転――。
鬼才島田荘司氏に“本格ミステリー宣言”を書かしめた、二人目の大型新人の本格色にして異色、かつ絶妙のユーモアで味付けした傑作長編推理デビュー作!
   ――表紙裏より

感想

ノリは軽いが中身は割としっかりとした本格的推理小説。トリック自体は多少作り込みが甘い気がしないでもないが、第七章の「慎二、『密室講義』を試みる」が非常に興味深い構成になっている。僕は推理小説に詳しい訳ではないが、“メタ推理”とでも言えようか。面白い。
書かれた時期を考慮しても設定に古さを感じるのと、人物描写が平凡なのが少し弱い。後者は僕がライトノベルを読み慣れている為かも知れないが。


0の殺人

一言

これぞアッと驚く結末。

目次

作者からの注意
開演前 殺人者
第一幕
一場 被害者
二場 警察官
三場 素人探偵
幕間一 殺人者
第二幕
一場 被害者
二場 警察官
三場 素人探偵
幕間二 殺人者
第三幕
一場 被害者
二場 警察官
三場 素人探偵
終幕
一場 警察官
二場 素人探偵
カーテンコール

梗概

物語の冒頭に置かれた<作者からの注意>に、驚くべきことに、奇妙極まりない殺人劇の容疑者たち四人のリストが公開されている! この大胆かつ破天荒な作者の挑戦に、果してあなたは犯人を突きとめられるか?
ご存知、速水警部補と推理マニアの弟と妹が活躍する、異色の傑作長編推理。
   ――裏表紙より

感想

次々と死亡していく登場人物たち。殺人事件もあれば、事故らしきものもある。それらが一本の線に繋がった時、驚くべき結末が迎えられる事となる。
最初の事件の真相に関してだけは警察の捜査力に疑問を感じたが、全体としては読み易く面白い。実は登場人物は少なくないが、容疑者リストが作成されている為、事件の構図は見え易い。しかし、どうしたって騙されるに違いない一作である。


メビウスの殺人

一言

動機は馬鹿馬鹿しいが、捜査の過程はマズマズ面白い。

目次

プロローグ
第一章 オープニング・ムーブ(初手)
第二章 レスポンス(第二手)
第三章 中盤戦
第四章 フェイント
第五章 リタイア
第六章 終盤戦
第七章 奇策
第八章 チェックメイト
エピローグ メビウス・リンク

梗概

大東京を恐怖のどん底につき落とす連続殺人が発生。犯行は金槌によるメッタうちと絞殺が交互する。犯人は一人か、あるいは別人か。現場には常に謎の数字を記したメモが……。被害者たちを結ぶ“失われた環”を探せ! ご存知速水三兄妹がつきとめた驚愕の真相とは? 奇想天外な推理の新旗手の長編第三作。   ――裏表紙より

感想

比較的コメディ路線の強かったシリーズだが、今作はコメディとシリアスの混じり方が程良い。
結末のオチは何となく読めてしまう部分もあるが、そこに至るまでの過程が充分に面白いので、あまり気にはならない。
しかし速水慎二を主人公にすれば、簡単に本格的推理モノが書けてしまう気がする。それが良いのか悪いのかは分からないが。


探偵映画

一言

ミステリでありながらミステリである事を放棄した作品。

目次

予告編
第一章 クランク・イン
第二章 撮影中止
第三章 善後策
第四章 チーフ会議
第五章 犯人が多すぎる
第六章 シナリオ作成
第七章 撮影再開
第八章 クランク・アップ?
『メイキング・オブ・探偵映画』

梗概

映画界の鬼才・大柳登志蔵が映画の撮影中に謎の失踪をとげた。すでにラッシュも完成し、予告篇も流れている。しかし、結末がどうなるのか監督自身しか知らないのだ。残されたスタッフは、撮影済みのシーンからスクリーン上の犯人を推理していく……。『探偵映画』というタイトルの映画をめぐる本格推理小説。   ――裏表紙より

感想

この作品はミステリであって、ミステリでない。確かに作中にミステリの要素は含まれるが、読者は犯人当てやトリック推理を楽しむ訳ではないのである。
言わば『探偵映画』は「犯人やトリックを作り上げて行く」物語であり、メタミステリの要素が色濃く出ている。監督失踪の真相や、真の解決篇についてなど、読者の興味を引く要素は多く有るが、それに過剰に期待し過ぎると逆に呆気無い結末に失望するかも知れない。
この作品は、そういったミステリ的な読み方ではなく、もっと純粋に映画の楽しさを教えてくれるエッセイ集のような物だと思った方が良いと思う。


人形はこたつで推理する

一言

ライトな感覚の安楽椅子探偵推理小説。

目次

第一話 人形はこたつで推理する
第二話 人形はテントで推理する
第三話 人形は劇場で推理する
第四話 人形をなくした腹話術師

梗概

鞠小路鞠夫――私が密かに思いを寄せる内気な腹話術師・朝永嘉夫が操る人形の名前です。出会ったのは幼稚園のクリスマス会。園で飼っている兎が死んだ事件を見事な推理で解決してくれました。そう、「彼」は実は頭脳明晰な名探偵だったのです。異色の人形探偵コンビが大活躍する青春ユーモア・ミステリー!   ――裏表紙より

感想

所謂“安楽椅子探偵モノ”と呼ばれるジャンルだが、『速水三兄弟』シリーズ同様、軽いノリのミステリーである。
作者は“新本格”と呼ばれる作家の一人だが、全く本格っぽくない推理小説なので、その辺を勘違いするとイマイチかも知れない。
まぁ表紙イラストを見れば、そんな勘違いをする人はいないと思うが。


人形は遠足で推理する

一言

二重の密室の存在など忘れてしまおう。

目次

第一章 遠足のお知らせ
第二章 出発
第三章 目的地変更
第四章 お弁当の時間
第五章 自由時間
第六章 解散予定時刻
第七章 反省会
エピローグ 後始末

梗概

「スピードをもっとあげろ! ぶっ飛ばせ」
私、めぐみ幼稚園の妹尾睦月です。今朝、園児たちと乗り込んだ遠足バスが警察が追っている殺人犯(しかも拳銃所持!)に乗っ取られるという事件に巻き込まれて、もう大変。同行の腹話術師・朝永さんと、彼が操る人形の鞠夫も大ピンチ! 好評の人形探偵シリーズ第二弾。
   ――裏表紙より

感想

人形シリーズ第2弾だが、短編集だった前作とは異なり、今作は長編である。ライトな感覚はそのままに、長編らしい構成はしっかりと為している。
殺人現場とバスジャック現場という2つの密室を舞台に繰り広げられる物語は、そのシリアスな舞台骨を捻じ曲げ、ユーモアたっぷりに描かれている。
ミステリーとして読むよりは、もっと軽い小話を読むつもりの方が、読後の評価は高くなるだろう。


人形は眠れない

一言

長編のような短編。

目次

第一章 二次会にて
第二章 鞠夫誕生秘話
第三章 ドライブ
第四章 放火魔
第五章 予告状
第六章 密室
第七章 夜の冒険者たち
エピローグ

梗概

お久しぶりです! 妹尾睦月です。今回は、私の住む街で起きた連続放火事件に腹話術師の朝永さんと人形の鞠夫が果敢に挑戦します。その最中、なんと私に言い寄ってくる好青年が現れて、もう大変。と、とにかくときめいて、そしてちょっぴり切ないひと夏の出来事の御報告です。<人形探偵シリーズ>好評第三弾。   ――裏表紙より

感想

長編的な要素を強く残した短編集。有りそうで見掛けない形式である。
1つの短編を終える度に幾つかの謎が残り、それが次の短編への興味を引く形となっていて、それなりに成功していると思う。しかし、全体に跨る要素、つまり長編として読んだ場合の真相部分は、やや肩透かしな印象が拭えない。短編集としての体裁を取ってしまった事への代償だろうか。


人形はライブハウスで推理する

一言

単純に読み物として面白い。

目次

人形はライブハウスで推理する
ママは空に消える
ゲーム好きの死体
人形は楽屋で推理する
腹話術志願
夏の記憶

梗概

鞠小路鞠夫――私、妹尾睦月の思い人、腹話術師の朝永嘉夫さんが操る人形の名前です。でも「彼」が、実は名探偵! 今回も私の弟、葉月に嫌疑がかかった殺人事件を鮮やかに解決(表題作)してくれた世界唯一の人形名探偵なのです。本格テイストが横溢する短編6本を収録した青春ユーモア・ミステリーシリーズ!   ――裏表紙より

感想

8年振りに発売された人形探偵シリーズ第4弾。もう終わったシリーズかとばかり思っていたが、まだまだ新作を書くつもりが有るらしい。
全体の構成に凝っていた前作『人形は眠れない』を、再び踏襲するかのような仕上がりになっている。今作の方が全体としてのまとまりは無いのだが、読み物としてはこちらの方が面白いと思う。
例によって謎解きで肩透かしを喰らう事も多いが、あまりミステリーとして意識しなければ、そんなに気にならない。だけど、やっぱり『殺戮にいたる病』のような本格的な作品も読みたいなぁ、とも思ったりするが。


かまいたちの夜 特別篇

一言

本来はゲームの攻略本。

目次

小説版「かまいたちの夜」

梗概

松本の駅を過ぎ、列車が北上するに従って、窓外の景色は見る間に白く変わっていった。トンネルを抜けると……なんて劇的な変わり方ではなかったが、ぼく達はまさに雪国にやってきたのだった。   ――本文3ページより

感想

本来はテレビゲームの攻略本なのだが、本書の半分は小説で占められているのでココで紹介する。
内容はゲームに遵守しているが、パラレルワールド的な世界観を構築しており、必須知識は必要としない。ちょっとした軽い中編を読むつもりで臨むのが吉だろう。


あなただけのかまいたちの夜

一言

素人ならではの同人誌的な面白さ。

目次

かまいたちの夜 A Novel
最優秀賞 吹雪の晩餐
かまいたち大賞 かまいたちの誘惑
準優秀賞 分岐点
準優秀賞 雪猫
我孫子武丸賞 香山のかまいたちの夜
一発笑(賞) 小林さんの賭け
入賞 冬の日の闇
入賞 吹雪に埋もれた贖罪
入賞 まぼろしの一日
分岐賞 発覚!! 透君の正体

梗概

本書に収められた作品は、『公式ファンブックかまいたちの夜』紙上で行われたコンテストの入賞作品です。力作の中から選りすぐられた、まさに十人十色の色付けによる、新たなる『かまいたちの夜』。
私たちチュンソフトがお薦めできる作品を、本書に収録いたしました。さて、あなた好みの『かまいたちの夜』はどの作品でしょうか?
   ――表紙裏より

感想

ゲーム『かまいたちの夜』の内容をさらに発展させたノベルス版。作品は基礎となる物語以外は全て素人の執筆に拠る。
まずは「かまいたちの誘惑」の完成度の高さに驚く。ゲームブックの体裁をしているが、充分に楽しめる内容である。最優秀賞となった「吹雪の晩餐」は、後半部分の描写が疎かになっているのが目立ってしまっているのが残念だった。準優秀賞や入賞の作品はどれもが適度な長さで面白い。
ゲームをプレイした事の有る人ならば、思わずニヤリとするような場面も満載で、元作品のイメージを崩していないのも良い。


かまいたちの夜2オリジナルノベルズ 三日月島奇譚

一言

ボリューム的に物足りない。

目次

導入【わらべ唄】
底蟲村異聞
底蟲村記録抄書
香山さん探偵帳

梗概

一つの物語があった。
『かまいたちの夜』――
次々と殺されていく旅人たち。
迷宮の奥に眠る岸猿家の秘宝。
常世の蟲と土蜘蛛の永遠とも言える因縁。
いくつもの話を綴った物語――

そこに新しいページが加わる。
無限に広がる可能性。
その『無限』を感じる一瞬が、確かに存在している――
   ――本文4ページより

感想

ゲーム『かまいたちの夜2』を原作とした新たなる3つの物語。
「底蟲村異聞」はゲームにも出て来る「底蟲村篇」と双頭を為す形になっていて、「なるほど」と思う反面、「底蟲村篇」ほどのインパクトが無い。もう少しどんでん返しが有ればなぁ、という感じ。
「底蟲村記録抄書」は構成としては面白いが、肝心の物語がそうでもない。奇妙さを前面に押し出そうとしているのは分かるが、そこで止まってしまっている。
逆に「香山さん探偵帳」は、他愛無い代わりに純粋に楽しめた。ゲーム中にこういう話が無かったので、余計に良かった。
全体的にボリューム不足で、これなら各作家とも2つずつくらいは書いて欲しかった処。


あなただけのかまいたちの夜2

一言

圧倒的な存在感の「聖母篇」の為だけでも買う価値が有る。

目次

はじめに
受賞作選考員による特別座談会
受賞作選考員講評
大賞・我孫子武丸賞・田中啓文賞受賞作「聖母篇」
優秀賞受賞作「殺人魚篇」
優秀賞受賞作「かまいたちの夜に、監獄島のわらべ唄を」
牧野修賞受賞作「香山さんのカラオケ大会〜みなはん、おおきに〜」
中村光一賞受賞作「殺人考察篇」
麻野一哉賞受賞作「あの人篇」
落合信也賞受賞作「人魚姫の眠る海」
SBP賞受賞作「真・我孫子篇」
「かまいたちの夜2」舞台裏開発秘話
リレー小説「飛翔島篇」
田中啓文「天狗伝承篇 増補改訂版」
おわりに

梗概

みどりさんが息を飲む。真理が唇を噛む。美樹本さんが眉間に皺を寄せる。香山さんが目を見開く。ぼくは黙ってトレンチコートを着た男を見た。
彼は表情を全く変えずに言葉を続けた。
「私はあなたたちが気づいていないことに気づいています。その考えが正しければ、『不老不死』伝説も隠れキリシタンの存在も、もちろんこの夏に起きたあの悲劇も説明できることになりますね」
室内の空気が緊張感を孕んだ。誰かが信じられないと呟く。
みどりさんが一歩踏み出して叫ぶように言った。
「なら、なら説明してよ。何が起きたのか、あの晩に一体なにが」
   ――表紙裏より

感想

兎にも角にも「聖母篇」が凄い。選者達が挙って褒め称えているように、これだけで1冊分の価値が有る。素人の二次小説というジャンルでは最高峰の出来栄えではないか? プロの作品として読んでも、充分に平均より上だろう。
同じく「かまいたちの夜に、監獄島のわらべ唄を」もセンスを感じた。後半の展開が少し残念だが、全体の構成力は「聖母篇」に勝るかも知れない。
「殺人魚篇」や「人魚姫の眠る海」は、ゲーム本編に含まれていそうなストーリー。そういう意味では安心して読める。
「殺人考察篇」は二次小説という枠組みを最大限に活かした作品だ。個人的には非常に好きなのだが、こういう作品が多いと、それはそれで困るだろな。


殺戮にいたる病

一言

ミステリーの最高峰としての一つの形。

目次

エピローグ
第一章
第二章
第三章
第四章
第五章
第六章
第七章
第八章
第九章
第十章

梗概

永遠の愛をつかみたいと男は願った――東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔! くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。   ――裏表紙より

感想

ショッキングな描写が続く展開には、嫌悪感を抱く人も多いかも知れない。切り取られた身体の一部の行方に対しての真当な推理に対し、それの遥か上を行く殺人犯の行為。さらにエスカレートする異常性行為の数々。確かにこれらは相当に“エグイ”ものであり、リアルな想像に耐えない部分も多いかも知れない。
しかし作品が示し続けるのは、現代日本の普通の家庭――家族関係の歪さ、或いは奇妙さであり、それ以外の何物でもない気がする。父と息子、母と息子、姉と妹、夫と妻、孤独な老人……そしてその中の、とある二重構造が、この作品を極上のミステリーへと昇華させている。
「この種の推理小説では、これ以上の作品は作り出せないのではないか?」――そんな印象すら与える程の傑作である。


腐蝕の街

一言

期待を裏切られた感は拭えず。

目次

腐蝕の街

梗概

その少年は三人を相手にしていた。表の中華料理屋が出したらしい生ゴミの酸っぱい臭いが漂う袋小路に引きずり込まれ、霧雨に濡れたコンクリート壁に押しつけられていた。二人が腕を片方ずつ、そして最後の一人がネックハンキングのように左手で喉首を押さえ込み、白い息が少年の顔にかかるほど顔を近づけていた。   ――本文5ページより

感想

やや偏った想定の近未来日本を舞台にした、サスペンス小説。死刑が執行されたシリアルキラーの死体が消失し、生前の似たような手口の犯罪が再び発生する事で、主人公刑事が捜査に乗り出す。
設定は面白いし、中盤までの盛り上げ方も上手い。正に謎が謎を呼ぶ感じで、多くの提示された要素がどのような一点に収束して行くのか――それが物語の焦点である。
ところが、そのような推理小説的な読み方をした場合、恐らく多くの読者は落胆を隠せない事になる。「まだ何か、どんでん返しが有る筈だ」と思いながら、しかしそのまま結末を迎えてしまうからだ。
これは我孫子武丸というブランド名が齎した弊害かも知れない。ラストに期待してしまう作品を書いているだけに、本作でも同じ事を心に秘めてしまうのだ。その意味では、評価が辛くなってしまうのは仕方の無い所か。


屍蝋の街

一言

前作と同じく、何かが足りない。

目次

屍蝋の街

梗概

2025年――。ネットワーク上の仮想都市“ピット”は殺人や強盗が氾濫している無法地帯。現実世界の溝口&シンバを殺せば、賞金と名誉が手に入ると、多くのネットジャンキーが命を狙う。連続猟奇殺人鬼「ドク」に脳をコントロールされつつも戦いに挑む溝口。待望の近未来クライム・ノベル第二弾!   ――裏表紙より

感想

前作『腐蝕の街』の完全続編。主要登場人物も殆ど引き継がれている。
『腐蝕の街』が個人的にはイマイチだったので、あまり期待せずに読んだ為に特に失望は無かったが、それでも物足りなさは感じた。今回は推理小説的な展開も無く、ただただ腐敗した近未来像が描かれ続ける。それなりに面白い試みも為されているが、お遊びの域を出るものではない。
そもそも冒頭から有る程度の展開が読めてしまうのが痛い。これならば『ディプロトドンティア・マクロプス』のような二部構成の作品にした方が良かった気がする。


たけまる文庫 怪の巻

一言

滲み出てくるような恐怖感。

目次

猫恐怖症
春爛漫
芋羊羹
再会
青い花嫁
嫉妬
二重生活
患者
猟奇小説家

梗概

業界初(?)の「ひとり雑誌」形式で世間を「あ〜っ?」と言わせた話題の短編集「小説たけまる増刊号」が、なんと今度は驚きの「個人文庫」になって帰ってきた――。記念すべき第一回配本分はホラー作品を集めた「怪の巻」をお届けします。猫を異常に恐れる男の話「猫恐怖症」、桜が頭蓋を食い破る「春爛漫」、小説の通りに起きる惨殺事件の謎「猟奇小説家」など選りすぐりの九編。……怖いです。   ――裏表紙より

感想

元々は形態が変わった書籍として刊行されたようだが、本書は普通の短編集となっている。
ホラーと言うよりは、『世にも奇妙な物語』的な雰囲気が強い。瞬間的な怖さも無くはないが、それよりはじっくりと考えていると滲み出てくる怖さが多い。
性的なストーリーが多いが、それを巧く怖さに結び付けている。


たけまる文庫 謎の巻

一言

前半はオススメ。

目次

裏庭の死体
バベルの塔の犯罪
花嫁は涙を流さない
EVERYBODY KILLS SOMEBODY
夜のヒッチハイカー
青い鳥を探せ
小さな悪魔
車中の出来事

梗概

業界初(のはず)の話題(のはず)の個人文庫、第二回配本分にして堂々の完結巻はミステリ短編を集めた「謎の巻」です。ファンおなじみの速水三兄妹のあいかわらずの推理が冴える「裏庭の死体」。2017年の東京湾を舞台に、ある有名な刑事の決死の活躍を描く「バベルの塔の犯罪」。自分自身の行動調査を探偵に依頼する不思議な中年男「青い鳥を探せ」など傑作八編。……謎だらけです。   ――裏表紙より

感想

短篇推理小説集。と言っても一部はミステリーと言うよりはサスペンス風のものも有る。
全体として、前半ほど面白く後半になるに連れて冗長になって行く傾向を感じた。これは前半の作品ほど作者の個性が強く出ていた事を意味する。
決して詰まらなくはないのだが、他の有名作家の焼き直し的な作品が多くなってしまっていたのが残念。


ディプロトドンティア・マクロプス

一言

驚きの二部構成の中身は……。

目次

ディプロトドンティア・マクロプス

梗概

京都で探偵事務所を開設したばかりの私に依頼人が二名。「失踪した父を探してほしい」という大学教授の娘と、「カンガルーのマチルダさんを見つけて!」とわけのわからないことを叫ぶ美少女だった。捜査を始めた途端、私は暴漢に襲われる。すでに巨大な陰謀の渦中にいたのだ。先の読めない我孫子流ハードボイルド。   ――裏表紙より

感想

とてつもなくテンポの良い展開に逆に違和感を感じていると、中盤で事件は解決してしまう。何だか展開は強引だし、結局なんだったんだ、という感じ。しかし、この作品は正にそんな所から真の姿を見せ始める。
我孫子武丸は基本的に良い意味で読者を舐めた作品を書くが、そういう意味では今作に及ぶ作品は今後、絶対に現れないだろう。それくらい、ふざけたストーリー展開である。この先は読んで貰うしかないが、少なくとも彼の今までの作品なぞ、平然と許せるくらいでないと、読んだ後に失望するのは確定的である。それを覚悟した上で、この破天荒な作品を読んだ方が良い。


まほろ市の殺人 夏

一言

ページ数の少なさで、欠点がチラホラ。

目次

夏に散る花

梗概

真幌市に住む新人作家君村義一の許へファンレターが出版社から転送されてきた。送り主の住所も同じ真幌。執筆に行き詰まっていた君村は、四方田みずきとのメールのやり取りで意欲もわき始め、まだ見ぬ彼女に恋をした。一度は彼女に会うことができたものの、彼女との連絡はとぎれ……。そして、思いを募らせる君村がとった行動が、思いがけない事件を呼ぶ!    ――裏表紙より

感想

全部で100ページちょっとの中編推理小説。しかしアイデア自体は200ページくらいの分量が妥当と思われ、その所為か割と穴が多い。最も問題なのは肝心のネタがあまりにも分かり易過ぎる事と、親友に関する設定で伏線が無かった事だろう。どちらも推理小説としては大きな欠点だ。
また初めての死者が出るのが遅い為に、終盤は展開を急ぎ過ぎているようにも感じられる。その意味でも、もう少し厚い本にするべきだった。
まぁ短くて軽いので、推理小説を殆ど読んだ事が無い人にはオススメできる作品にはなっている。


三人のゴーストハンター 国枝特殊警備ファイル

一言

三人の作家のコンビネーションが秀逸。

目次

File.1 熱キ血汐ニ…
File.2 獣日和
File.3 楕円形の墓標
File.4 常世の水槽
File.5 鳥迷宮
File.6 呪われた偶像
File.7 血まみれの貴婦人
File.8 葛千夜
File.9 ハネムーン・スイート
Final File 洞蛙坊の最後
Final File 虫籠の閨
Final File 真実のありか

梗概

(怪異現象に遭遇した場合)
第36条 警備員が怪異現象と考えられる状況に遭遇した場合は、それをなかったものとして、警備を続行すること。なお、状況から無視することが不可能である場合、自己判断で処理しようとせず、すみやかに左記に連絡し、警備を引き継ぐものとする。
国枝特殊警備保障(有)
電話番号 ○○○○―○○○○
   ――本文5ページより

感想

三人の作家による三人のゴーストハンターの物語。一人の作家が一人の主人公を担当するが、三つの最終話に限り全ての主人公が描かれる。
三人の主人公達がエピソードを重ねる毎に、少しずつ終局に向かって行く様子が手に取るように判るのが素晴らしい。あまり上品とは言い難い表現が多出するが、その辺りは我慢の範囲内。
ゲーム『かまいたちの夜2』の為に終結した三人だけに、『かまいたちの夜2』とのリンクする箇所が膨大で、そちらをプレイしていればさらに楽しむ事が出来る。
それぞれの作家の個性が非常に良く表れていたと思う。個人的にはやはり我孫子武丸が最も読み易くて良かったが。


少年たちの四季

一言

「少年少女」という事を強く意識した佳作中編集。

目次

ぼくの推理研究
凍てついた季節
死神になった少年
少女たちの戦争

梗概

マンションの隣に越してきた萩原さんは大人のくせにいつもゲームばかりしている。中三の夏休み、受験勉強に飽きたぼくは、居心地のいい萩原さんの部屋に遊びに行くようになった。でも、そんな無邪気で楽しい日々も、死人が出るまでのことだった。ある日、窓の外を若い女が落ちていったんだ……。飛び降り事件は自殺? それとも他殺? 思春期の四つの季節を瑞々しく描く青春ミステリ連作。   ――裏表紙より

感想

主人公が全て少年少女である中編集。そして彼らの敵は、親だったり思春期特有の夢想だったりする。
――と、こんな事を書くと非常に安直な造りの小説だと思われてしまうかも知れないが、基本的にはどれもが大人でも読める作品だ。と言うか作者も書いているが、大人向けの小説とも言えない事は無い。
個人的には「少女たちの戦争」がイマイチだったものの、その他は充分に楽しめた。軽いミステリー風味が程良い。


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