極めて上質な短編集。手抜きは一つも無い。
見知らぬあなた ささやく鏡 茉莉花 時を重ねて ハーフ・アンド・ハーフ 双頭の影 家に着くまで 夢の中へ…… 穴二つ 遠い窓 生まれ変わり よもつひらさか
現生から冥界へ下っていく道を、古事記では“黄泉比良坂”と呼ぶ――。なだらかな坂を行く私に、登山姿の青年が声をかけてきた。ちょうど立ちくらみをおぼえた私は、青年の差し出すなまぬるい水を飲み干し……。一人でこの坂を歩いていると、死者に会うことがあるという不気味な言い伝えを描く表題作ほか、戦慄と恐怖の異世界を繊細に紡ぎ出す全12編のホラー短編集。 ――裏表紙より
ホラーやミステリーの要素を絡めた短編集。オチの付け方はショートショートの大家である星新一に非常に近しい物を感じるが、一作毎に異なる世界観を、高いレベルで構築しているのが今作の特徴と言えるだろう。その為に一話読むのに労力を要するのは確かだが、それだけの価値が有る。
個人的には「家に着くまで」が最も好きだった。次点としては「穴二つ」。「遠い窓」も着想は良かったが、残念ながら序盤で先の展開が読めてしまったのが残念。
意外な事に表題作の「よもつひらさか」が僕の中では最も低評価だった。別に霊的なモノが出て来る所為ではないのだが、それまでの作品の質が高かった為に、期待し過ぎた部分が有ったのかも知れない。