タイトル | 出版社 | 初版日 | 勝手な採点 | 通販 |
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ブギーポップは笑わない | 電撃文庫 | 1998年02月25日 | ★★★☆ | 購入 |
ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター Part1 | 1998年08月25日 | ★★★★☆ | 購入 | |
ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター Part2 | 購入 | |||
ブギーポップ・イン・ザ・ミラー 「パンドラ」 | 1998年12月25日 | ★★★★ | 購入 | |
ブギーポップ・オーバードライブ 歪曲王 | 1999年02月25日 | ★★★★★ | 購入 | |
夜明けのブギーポップ | 1999年05月25日 | ★★★ | 購入 | |
ブギーポップ・ミッシング ペパーミントの魔術師 | 1999年08月25日 | ★★★★☆ | 購入 | |
ブギーポップ・カウントダウン エンブリオ浸蝕 | 1999年12月25日 | ★★★★☆ | 購入 | |
ブギーポップ・ウィキッド エンブリオ炎生 | 2000年02月25日 | 購入 | ||
ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド | 2001年02月25日 | ★★★☆ | 購入 | |
ブギーポップ・アンバランス ホーリィ&ゴースト | 2001年09月25日 | ★★★★ | 購入 | |
ブギーポップ・スタッカート ジンクス・ショップへようこそ | 2003年03月25日 | ★★★☆ | 購入 | |
ブギーポップ・バウンディング ロスト・メビウス | 2005年04月25日 | ★★★☆ | 購入 | |
ブギーポップ・イントレランス オルフェの方舟 | 2006年04月25日 | |||
ビートのディシプリン SIDE1[Exile] | 2002年03月25日 | ★★★★ | 購入 | |
ビートのディシプリン SIDE2[Fracture] | 2003年08月25日 | ★★★★ | 購入 | |
ビートのディシプリン SIDE3[Providence] | 2004年09月25日 | ★★★★☆ | 購入 | |
ビートのディシプリン SIDE4[Indiscipline] | 2005年08月25日 | ★★★★ | 購入 | |
殺竜事件 | 講談社ノベルス | 2000年06月05日 | ★★★ | 購入 |
紫骸城事件 | 2001年06月05日 | ★★★★☆ | 購入 | |
海賊島事件 | 2002年12月15日 | ★★★★ | 購入 | |
禁涙境事件 | 2005年01月10日 | ★★★☆ | 購入 | |
残酷号事件 | ||||
冥王と獣のダンス | 電撃文庫 | 2000年08月25日 | ★★★★☆ | 購入 |
ぼくらは虚空に夜を視る | 徳間デュアル文庫 | 2000年08月31日 | ★★★★ | 購入 |
わたしは虚無を月に聴く | 2001年08月31日 | ★★★☆ | 購入 | |
あなたは虚人と星に舞う | 2002年09月30日 | ★★★★ | 購入 | |
しずるさんと偏屈な死者たち | 富士見ミステリー文庫 | 2003年06月15日 | ★★ | 購入 |
しずるさんと底無し密室たち | 2004年12月15日 | ★★★ | 購入 | |
機械仕掛けの蛇奇使い | 電撃文庫 | 2004年04月25日 | ★★☆ | 購入 |
ソウルドロップの幽体研究 | 祥伝社 | 2004年08月30日 | ★★★☆ | 購入 |
メモリアノイズの流転現象 | 2005年10月20日 | ★★★☆ | 購入 |
構成は見事だが、物語は少し弱い。
イントロダクション 第一話 浪漫の騎士 第二話 炎の魔女、帰る 第三話 世に永遠に生くる者なし 第四話 君と星空を 第五話 ハートブレイカー
君には夢があるかい? 残念ながら、ぼくにはそんなものはない。でもこの物語に出てくる少年少女達は、みんなそれなりに願いを持って、それが叶えられずウジウジしたり、あるいは完全に開き直って目標に突き進んだり、まだ自分の望みというのがなんなのかわからなかったり、叶うはずのない願いと知っていたり、その姿勢の無意識の前向きさで知らずに他人に勇気を与えたりしている。
これはバラバラな話だ。かなり不気味で、少し悲しい話だ。――え? ぼくかい? ぼくの名は“ブギーポップ”――。
第4回ゲーム小説大賞<大賞>受賞。上遠野浩平が書き下ろす、一つの奇怪な事件と、五つの奇妙な物語。 ――表紙裏より
一つの事件を様々な視点から描くという手法が見事に効いている。新たな章に入る度に新たな発見が在る楽しみを提供してくれる。
人物設定はやや波が感じられた。炎の魔女などは良いが、敵役のキャラクターが定型的で弱い。その所為か、物語が盛り上がりに欠けた気がした。エコーズという存在の非現実性も一因か。
目指したのはエヴァンゲリオン。
T U V W X Y T U V W X Y Z [
あなたは自分の心の中に、何かが足りないと思ったことはない? 他の人にはあるのに、自分にはそれがないと悩んだことはない? 欠けているものを誰かに埋めてもらいたいと願ったことはない?
そのことなら、もう心配はいらないわ。すぐに“そのとき”が来る。新しい可能性がひらかれて、苦しみのすべては終わるときが来る。私の敵<ブギーポップ>が邪魔さえしなければ――。私? そうね、敵は私を<イマジネーター>と呼ぶわ……。
第4回電撃ゲーム小説大賞<大賞>受賞の上遠野浩平が書き下ろすスケールアップした新作。イマジネーターの手から君は逃れられるか……? ――Part1表紙裏より
君にはやらなければいけないことがあるかい? そうしなくてはだめだと思い込んでいることはないかい? それは君にとって本当に大切なことなのか、真剣に考えてみたことがあるかい?
もし、君がどんなことをしてもやり通すというなら、それもいいだろう。だがそれが、何の望みも願いもない、ただの暴走であるなら、君は<イマジネーター>の手の中に堕ちているのかもしれない。もしそうなら、このぼく――<ブギーポップ>は、何度でも君の前に帰ってきて、そして“対決”するだろう――。
ゲーム小説大賞<大賞>受賞の上遠野浩平が書き下ろす待望の新作。君はブギーポップに救われるのか、それとも……。 ――Part2表紙裏より
作品構成自体は前作を素直に進化させた感じ。しかし学園モノの色合いが強かった前作に対し、今作は自己形成モノに様変わり。アニメ『エヴァンゲリオン』の“人類補完計画”を分かり易い形で表現しようとしたように感じる。ただそうなると聊か考察が浅い印象が強い。
一方、純粋に物語としては完成形と言える程にレベルが高い。事件をドラマチックに描けているし、キャラクターも充分魅力的。
そういった意味では図らずも“アンバランス”な作品となってしまったか。
主人公不在ながら上質な物語。
1 六人 Our Gang 2 数宮三都雄 Baby Talk 3 七音恭子 Aroma 4 天色優 Stigma 5 世界の中心 Heart of The World 6 神元功志 Whispering 7 辻希美 Automatic 8 海影香純 Into Eyes 9 血 Blood
君は運命を信じているかい? 自分たちの意志とは関係なく回っていく世界の流れを実感したことはあるかい?
これは六人の少年少女たちの物語だ。彼らは未来を視ることができる不思議な力を持っていて、彼らの間でだけその能力をささやかに使っていた。彼らに罪はない。そして責任もない。しかし――
「これ――ブギーポップ?」
六人の予知にこの僕の幻影が現れた時、運命の車輪は回りだした……。
第四回ゲーム小説大賞で<大賞>を受賞した上遠野浩平のブギーポップ・シリーズ第三弾。六人の選択は救いか、それとも破滅か……? ――表紙裏より
上遠野浩平のセンスが光る渾身の作品。これまでと違い物語の構成は平凡ながら、高校生たちの心情を丹念に描き、そしてストーリーもかなり魅力的。曖昧さが残る結末にはやや逃げが見られるが、一つの作品として見た場合には大した問題ではない。
しかしこれが『ブギーポップ』というシリーズである事を考えると、主人公(ブギーポップ)不在の感は否めない。
各キャラクターの不完全な能力を上手く組み合わせて機能させていくのは非常に面白かった。ただ、彼らの連帯感はそれだけを拠り所にしているようにも感じた。第9章が配置されているのが最後でなければ印象も違ったと思うのだが。
再び“心の補完”に挑戦。
am8:24 am8:45 am9:02 am9:26 am9:34 am9:58 am10:00 am10:25 am10:32 am10:46 am11:02 am11:34 am12:00/pm0:00 pm0:01 pm0:24 pm0:42 pm1:37 pm2:06 pm2:14 pm2:21 pm2:30 pm2:46 pm2:50 pm2:56 pm2:57 pm3:00 pm3:03 pm3:14 pm3:34 pm3:53 pm4:01 pm4:22 pm4:41 pm5:00 pm5:02 pm5:06 pm5:09
“僕は歪曲王。君の心の中にある歪みに君臨するもの。君が歪みを黄金に変えることができるまで、僕はずっと君の側にいるだろう――”
二月十四日の聖バレンタイン・デイ。都市のど真ん中に屹立する異形の高層建築<ムーンテンプル>の観覧イベントに集まった人々を巻き込んで世界が歪んでいく。人々に甘く囁きかける歪曲王は、すべてがねじ曲がったその世界こそ天国にいたる階段だという。
そして、そこにはもうひとつの奇妙な影がまぎれていた。
“やはり来たな、ブギーポップ……!”
人の心に棲む者同士が相まみえる時、終わりなき一日が、幕を開ける。 ――表紙裏より
位置付けが難しい作品だ。ストーリーとしてはデビュー作『ブギーポップは笑わない』の続編という事になるのだろうが、僕には第2作である『ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター』で描き切れなかった部分を、前回とは全く別の手法で補完しているように感じる。
『イマジネーター』の時に僕は「アニメ『エヴァンゲリオン』の“人類補完計画”を分かり易い形で表現しようとしたように感じる」と書いている。今作も正にその通りである。ただ前回は“補完する側”が主体として描かれていたのに対し、今回は“補完される側”(新刻敬)が主人公だ。その変更により、説得力が大幅に増している。
シリーズの中に於ける霧間凪の重要性を示す。
夜明けの口笛吹き The Piper at the Gates of Dawn ブギーポップの誕生 The End is the Beginning is the End 霧間凪のスタイル Style 天より他に知る者もなく God Only Knows パブリック・エナミー・ナンバーワン Public Enemy No.1 虫 The Bug 夜明けの口笛吹き REPRIZE The Piper at the Gates of Dawn "Reprize"
君はこの世に取り返しがつかないことはないと思うかい? 辛い過去も、どうにかして清算することができると思うだろうか。それとも過去は、触れることのできない暗部でどうしようもないかな? 昔に起きたことはその後のすべてを決めて変えることはかなわないのだろうか?
……これはぼく、ブギーポップの誕生に関する物語だが、ここには四人の変わり者が登場する。彼らは探偵で、人の恐怖を喰らう者で、作家で、暗殺者だ。彼らが炎の魔女と出会うときに、四人が辿る道を、あなたは取り返しのつかぬ失敗と見るか、それとも――
ささやかで不可思議な、六つの異形の視点から語られる、ブギーポップ最初の事件。 ――表紙裏より
「ブギーポップ」シリーズの番外編。しかし物語の構造はデビュー作『ブギーポップは笑わない』に非常に近い。
ただ『ブギーポップは笑わない』に近いと言っても、それは一つの事件を様々な視点から描いた訳ではなく、霧間凪という視点を中心に様々な時代から描くという手法を取っているのが特徴的。今までは重要や位置にいながら脇役に甘んじていた霧間凪だが、一連の事件に最も深く関わっていたのも彼女だという事がよく分かる。
縦横無尽な活躍をする霧間凪だが、少し超人的過ぎるのが難点か。
不思議な感覚を生み出す奇妙な物語。
ACT.1 the tender ACT.2 the seeker ACT.3 the hopper
君は何かを取り逃がしてしまったことはあるかな? とてもとても大切なことだったのに、つまらない意地を張ったり、目の前のことばかりに気を取られて見逃してしまったことはないかい? ……これはそういうことを繰り返さざるを得なかったある魔術師の話だ。彼は天才で、成功者で、そして失敗者だ。この魔術師が辿る一途で愚かで、そして寂しく陽気なこれはアイスクリームの物語。冷たく鮮烈な甘さは、一瞬の、そう、このぼくブギーポップですら見逃してしまうほど速く、あっという間に溶けて消えてなくなっていくひとときの慰み――
道化師と死神とそして夢破れた人々が織りなす、無邪気で残酷な悲しいお伽噺。 ――表紙裏より
アイスクリーム作りの天才ながら身体が緑色の軌川十助を軸に展開される、実に奇妙な物語。それでいて人間味溢れる話でもあり、とにかく読んでいて不思議な感覚を覚える作品である。
3部構成だが、第1部はそれだけで一冊分になるくらい、内容が濃密で素晴らしい出来。物語終盤の第3部では懐かしいキャラクターが再登場しているが、これがまた巧い構成である。
ブギーポップ流の“対決モノ”。
1ST HALF -EROSION- VERSES FROM ONE TIL SIX 2ND HALF -ERUPSION- VERSES FROM SEVEN TIL THIRTEEN
人の心の中にはひとつの卵があるという。その卵は心の中で表向きは無いことになっている何者かを貯えながら育っていき、殻の中で生まれ出るその日をずっと待ち続けているのだという。それが殻を破ったとき、その可能性はこのぼく、ブギーポップをも凌いで、世界を押し潰すかも知れない。……そして卵の指し示す運命はここにひとつの対決を生み出す。一人は既に最強で、もう一人はこれから殻を破る。だが宿命の秒読みは二人が出会うそのときまで刻まれ続ける。最強と稲妻、この二人は己の生きるたったひとつの道を見出すため、多くの者を巻き込み避けえぬ激突を迎えることになるだろう――謎のエンブリオを巡る、見えぬ糸に操られた人々の死闘の第一幕がいま上がる。 ――エンブリオ浸蝕表紙裏より
世界って奴ァ悪意に満ちていると思わんかい? 普通に生きてるつもりでも、どこで足下掬われるかわかったもんじゃねえよな――オレはエンブリオ。人の心の中の殻をぶち破らせる存在。望むと望まざるとに関わらず、オレに触れたものは過剰な可能性を引きずり出され、災厄に巻き込まれることになる……そしてその災厄が今、最強と稲妻の再対決を呼ぶ。この命運を賭けた決闘が決着の時を迎えるとき、街は震撼し、高らかな炎が上がり、そしてブギーポップの奴は悪意たっぷりに運命に介入してきやがるのだ……
不思議なエンブリオを巡る死闘の果てに待つのは地獄か未来か、それとも―― ――エンブリオ炎生表紙裏より
フォルテッシモとイナズマ――二人の男達の対決物語だが、そこに前半では谷口正樹が割り込み、素晴らしい活躍を見せる。上巻である『エンブリオ浸蝕』の主人公は正に彼であり、フォルテッシモとイナズマの最初の対決などは、彼を引き立てる物でしかなかった。一方で後半では敵役ながらパールの執念深さが際立っていて、とにかく第三者が目立つストーリーである。
ある意味で本来の主人公二人は喰われてしまっているのだが、しかしそれは“キャラクターとして”であり、二人の対決自体が軽薄な物になっている事は意味しない。それがこの作品の最も優れた処だと思う。
問題がはっきりとしないまま最後に吹っ切ってしまう。
第一章 傷物の赤 第二章 空洞の狗 第三章 無疵の闇 第四章 炎の魔女 第五章 黙示の影
“世界の敵”とはなんだろうか? ヤバイことばかり考えている奴がそうだというのなら、この世は既に敵だらけだろう。このオレ、霧間凪には難しいことはわからない。だがその善悪の境界線みたいな所をブギーポップの奴は歩いている気がするし……そしてオレが中学生の頃に出会ったあの変わり者の女、九連内朱巳もまた、両方にまたがる場所に立っていた気がする。悪を恐れず、善に怯まず――あの<傷物の赤>はそういう少女だった――生命を停められた被害者たち。どこから襲ってくるか予測不能の敵。無為なる危機に対し霧間凪は如何に戦うのか。そして背後には迫りくる黙示録の予兆が――切ない恋心が“心のない赤”に変わるとき、少女は何を決断するのか? ――表紙裏より
通常の『ブギーポップ』シリーズよりも、前の時代のストーリー。どちらかというと外伝的な『夜明けのブギーポップ』に近い時代背景である。
今作では二人の少女が主人公である。これは『歪曲王』以来だが、『歪曲王』では見事に主人公の精神的内面の問題を解決したのに対し、『ハートレス・レッド』ではそもそも問題そのものがはっきりしない。そのはっきりしていない問題を何とか解決しようと主人公の一人が頑張る訳だが、当然結論もはっきりしたものは出せずに終わる。その辺りが『歪曲王』との大きな差だろう。
ただ物語としては今作はかなり優れていると思う。主人公少女の複雑な恋愛感が現実にどれだけ即しているのか男の僕には定かではないが、丁寧に描かれている事は事実である。
爽やかな結末が良い。
第一犯例 窃盗 第二犯例 強盗 第三犯例 器物損壊 第四犯例 往来妨害 第五犯例 公務執行妨害 第六犯例 殺人 第七犯例 偽証
君は知っているかな、あのホーリィとゴーストの伝説を? あの若い男女二人組の犯罪者はあまりにも誤解されすぎている。強盗、騒乱、破壊活動を繰り返した彼らは別に悪いヤツじゃあなかった。衝動で暴れていた訳じゃない。世の中に反抗していた訳でもない。二人はただひとつの選択をしただけ――それは“だって、ほっとけないし”という気持ち。だが哀れな世界の敵<ロック・ボトム>を解放しようとした彼女らの行動は数々の悪を呼び寄せ、遂には死神であるぼく、ブギーポップとの対面を呼ぶ――悪に依存せず、正義に従順でもない二人組が、後先考えない陽気な犯罪と空回りのあげくに辿り着く先は生か死か? あるいは―― ――表紙裏より
引き込まれる出だしに誘われるまま、あれよあれよという間にどんどん読み進められてしまう。“ロック・ボトム”とは何なのか、“スリム・シェイプ”とは誰なのか、という二つの疑問を軸に、これまでの『ブギーポップ』シリーズの要所を絶妙に絡めたストーリーは「面白い」としか言いようがない。“ロック・ボトム”の正体には少々納得行かない部分も有る(本当にそんなに大騒ぎするほどの物だったのか、という)が、主人公二人に対して与えられた結末はハッピーエンドではないものの爽やかで良い。
ただ、「結局、男は女には勝てねーなー」と再認識させられたのには、何とも……。
焦点がぼやけ気味で残念。
第一節 紺色の靴、白い動悸 第二節 青いリボン、防空壕 第三節 黒い帽子、緑の地下 第四節 時の亀裂、濁った雫 第五節 金色ピン、視線恐怖 第六節 赤い糸、まだらの猫
君にはツキがあるかい、それとも万事うまくいかない感じかな? 変なジンクスがつきまとい、何をしていいか分からないって経験はないかな? だが逆に、ジンクスを自由に身に付けることができるとしたら、その人間は運命を我がものにできるということになるのかも知れない。君は運命を手に入れたら何をするだろうか……街の奇妙な店が売るものは、人に楽しみと不安を等価値に与え、何処とも知れぬ場所に導くだろう。だが、その先に待っているのは口笛を吹く死神で――運命を操ろうとする者たちと、それを眺める者と、それを断ち切る者たちが奏でる断音符だらけの耳障りな交響曲が悪夢と未来を同時に歌う――。 ――表紙裏より
段々とマニアックな世界観を形成しつつあった『ブギーポップ』シリーズだが、今作はそれが顕著。久し振りな新作なだけに、何処となく雰囲気も変わった気がする。
ストーリーは絶対に面白い要素が多数あるにも関わらず、ちょっと詰め込み過ぎて焦点がぼやけてしまった印象。今までも“詰め込み過ぎ”の傾向は有ったが、確かに中核を為す要素が存在していた。今作では“オキシジェン”という人物がその役割を担っているのだろうが、ちょっと存在感が発揮しきれていないように感じる。重要人物である事は間違いないのだが。
キャッチコピーでもある「バウンドする」が秀逸。
BOUND1 冷たく、頼りない関係で―― BOUND2 爆心地で、煉瓦を拾って―― BOUND3 重なり合い、すれ違うのは―― BOUND4 心の中に、落ちてる影が―― BOUND5 彷徨って、求めるものに―― BOUND6 守るものと、守られるものと―― BOUND7 死神が、糸を切るとき―― BOUND8 いつか、跳ね返ってくるものは――
“君の胸の奥のその「動機」とやらは、実は空っぽなんじゃないのかい……?”
ブギーポップに復讐する。ただし誰のためでもなく、己自身のために――その執念に取り憑かれた少年が、内気な少女織機綺と共に“牙の痕”と呼ばれる地に足を踏み入れた時、混迷は幕を開ける。メビウスの輪のように表裏も定かでない異界に迷い込んだ二人の前に現れたのは、心の闇から顕れた爆弾の群と、鬼とも人ともつかぬ奇妙な子供“ブリック”だった――己の迷いに気づけない少年と、迷いの弱さに悩んでいる少女と、何処に行くべきかさえ知らぬ魔物が彷徨う――そこは境界。果てなき虚空と、儚き想いとの狭間に位置する迷宮に“破壊”が渦を巻くとき、死神が人に告げる言葉は断罪か、 赦しか、それとも―― ――表紙裏より
テーマは“迷い”と“守る、という事”の2つ。この2つが絡み合い、絶妙な物語を紡ぎ出して行く。
ただ例によって膨大な人物群を活用し、シリーズ全体としての体裁を整えていくに従って、単一の物語としては崩壊と再構成を繰り返す。結果として出来上がった作品は、前作『ジンクス・ショップへようこそ』の時のように詰め込み過ぎの様相を呈する。
柊と末真との関係が全く描かれなかった事から、このシリーズは収斂しているのか拡散しているのか定かではない。主人公たるブギーポップが死んでしまうのを予感させる描写が有った上に、次の世界である『ナイトウォッチ』シリーズに繋がる要素が散見される事から、もしかしたら統和機構そのものの全容は明かされる事が無いままに決着を見る可能性も高いかも知れない。
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ブギーポップの出ない『ブギーポップ』外伝。
第一話 拝命と復讐 第二話 追悼と動揺 第三話 成長と偶然 第四話 静止と油断 第五話 距離と油断 第六話 無明と暗黒
お前は強いか? この俺フォルテッシモはとてつもなく強いが、真に強い奴など滅多にいない。だが弱い訳でもない。大抵の人間は強くも弱くもなく、はっきりと決めないまま生きているが、そんな半端はいつか厳しい運命に叩き潰されちまう。どんな人生にも例外なく、強さを見せなきゃならん時が来るが、お前ならどうする? なあ、ビートよ――統和機構の合成人間ピート・ビートは謎の存在“カーメン”の調査を命じられたが、それは正体不明の敵が次々と襲いくる危険な戦いの始まりだった。そして彼に興味を抱く女子高生、浅倉朝子の人生の歯車も狂い始めて――死神の現れない過激な試練を前に、彼等は己の強さを見つけ出して、生き延びることができるだろうか……? ――表紙裏より
『ブギーポップ』シリーズの外伝的な位置付けの新シリーズ。もしかしたら外伝というよりは「ブギーポップが出ないだけ」という事かも知れない、それくらい酷似しているとも言える。何しろ主人公とヒロイン以外は殆どが既成のキャラクターなのである。
時期的には『ホーリィ&ゴースト』の終盤直前辺りから始まっているようだ。ラストで『ホーリィ&ゴースト』と直接リンクする人物が登場する。が、内容的には『夜明けのブギーポップ』の続きである。ここまで徹底的に他の作品と絡ませる手法は珍しいのではないか。
かなりの長編シリーズとなりそうな今作は、ラウンダバウトとの戦闘が主で、まだまだヒロインがどのような役割を担うのか等は想像も付かない状態だ。というか、読者としてはそれよりも“飛鳥井仁”や“イナズマ”という言葉に惹かれてしまう、この状態は作者の意図する所なのだろうか?
ブギーポップが出てしまった“ブギーポップの出ない『ブギーポップ』外伝”。
第七話 過去と未来 第八話 戦力と均衡 第九話 嫌悪と経験 第十話 閉鎖と方向 第十一話 交錯と反撃 第十二話 死神と断片
あなたは“とりかえしのつかないこと”というのがどういうものだか知っているかしら。私はザ・ミンサー。私と、懐かしい友達のピート・ビートは“それ”と出逢ってしまった。その絶体絶命の危機に、ビートは、そして私はどんな選択をすれば良かったのかしら――天涯孤独になり、統和機構からも狙われる身となった合成人間ビートは強敵バーゲン・ワーゲンとの激闘の中、過去の断片を思い出す。かつて彼が経験した別離、そしてそこで彼が出逢った黒帽子が見せたものは、はたして――過去と現在、ふたつの事象が交錯する過酷な試練の第二章は、霧の中に血の匂いが幽かに漂い、消えゆく追憶と爆炎の死闘がすれ違う―― ――表紙裏より
前作のラウンダバウトの代わりにバーゲン・ワーゲンが強敵として登場する第2巻。こうやって1冊に付き1人の敵を倒していく形式になるのだろうか。
ただ今作ではザ・ミンサーという重要人物が登場した為に、物語を構成する要素が多くなってしまい、殆どストーリーが進まなかった。前作でラウンダバウトとの決着が付いた後の少ないページ数で急展開を見せたのと対照的である。
今作で最も盛り上がったのはイナズマとバーゲン・ワーゲンの対峙のシーンだ。キャラクターを総出演させているだけに、これからも“夢の組み合わせ”的な展開が期待出来る。どうやら霧間凪も関わって来るようだし、目が離せない事は確か。
より一層、混迷の様相を呈しながらも、興味が尽きないストーリー。
第十三話 金剛と真珠 第十四話 流転と暗転 第十五話 直感と隠蔽 第十六話 抑制と魔女 第十七話 理解と秘密 第十八話 生者と死者
大変なことになっている――ひとはいつだって、自分では気がつかないうちに劇的な事態の急変に巻き込まれているもので、それは彼ピート・ビートも例外ではない。私レインとしては、ちょっと彼に興味があっただけなんだけど、しかし彼を取り巻く状況は本人の意志とは無関係に、どんどん恐ろしくなっていく――統和機構の追手モータル・ジムとの死闘に、最強フォルテッシモの再介入に、さらにはすぐ側で炎の魔女が暴れたりして――ビートの行き先に待つのは嘘と裏切りと決断と、そして……転落と崩壊の第三章は苛烈、熾烈の苦闘がさらに続く。若きビートに光明は未だ見えず、世界は彼に何を求めているのだろうか? ――表紙裏より
『ブギーポップ』シリーズ登場キャラクターたちが今まで以上に総出演。今までは影が薄かった九連内朱巳や飛鳥井仁も動き出し、さらに謎の存在だったカレイドスコープやオキシジェンも登場、仕舞には炎の魔女までが大活躍を見せる。
主人公ピート・ビートと行動を共にするジィドやラウンダバウトそれぞれの思惑が交錯し、それが思わぬ方向へ波及していく過程は、面白いの一言に尽きる。今までは中弛みする部分も有ったが、今作では読み出したら最後まで止まらない。
次巻で完結という事だが、アルケスティスとは誰なのか、ヒロインたる浅倉朝子は何の役割を担っているのか、そして当初からの謎であるカーメンとは何なのか――様々な謎を残しているので、興味が尽きない。本当に完結できるのだろうか?
最初から完結する気など毛頭無かったシリーズ。
第十九話 探求と転換 第二十話 予定と選択 第二十一話 帰還と再会 第二十二話 接触と邂逅 第二十三話 太陽と戦慄 最終話 業と鼓動 序章 ヴァルプルギスの後悔
人ってどうして苦労するのかなあ? 辛いこととか苦しいことって、何が理由なんだろう――私、浅倉朝子は普通の女子高生だったんだけど、でも私の人生は、奇妙な男の子と出会ってすっかり変わってしまった。統和機構とか、合成人間とか、特殊能力とか──得体の知れないものが殺し合ってる、こんな殺伐とした世界なんて、私は全然知らなかった。でも知ったからって、それが答って気もあまりしなくて……彼はどうなんだろう。謎の“カーメン”の正体を見つけられたら、そこで彼の旅って終わるのかな──強敵たちとの死闘、理不尽な混迷、そして過去との再開を経て、遂に少年は目的の地に辿り着く。厳しい試練の果てに、ピート・ビートが見つけた答とは……? ――表紙裏より
この物語で結末を見せたのは、ビートにとっての“カーメン”だけだ。それ以外は驚く程に何も解決していないし、それどころか謎は深まるばかりである。
ピート・ビートの物語かと思われた『ビートのディシプリン』シリーズだが、それは間違いだったのだ。これはフォルテッシモの物語であり、パールの物語であり、モータル・ジムの物語であり……詰まりは全員の物語であり、その根底に流れているのは、作者が常々描いてきた「本当の強さとは何なのか」という点に尽きるのではないか。
衝撃的な序章「ヴァルプルギスの後悔」は、次なるシリーズの前振りだと思って間違い有るまい。そしてそこでも、また同様に謎は深まっていくばかりに違いない。
ファンタジーと推理の融合。結果的には巧くいかなかったが――
第一章 洞の中 第二章 姫君と騎士 第三章 水面のむこうがわ 第四章 海賊の都 第五章 生ける竜と、死せる竜と 第六章 暗殺者の森 第七章 “犯人” 第八章 旅の終わり
竜。それは善悪を超越したもの。勇者を十万、軍を千万集めても倒せぬ無敵の存在。その力を頼りに戦乱の講和を目論んだ矢先に、不死身のはずの竜は完全閉鎖状況で刺殺される――
「事態が不条理だからこそ、解決は論理的なのさ」
戦地調停士EDは謎に挑むため仲間と混迷の世界に旅立つが――
ミステリーの“謎解き”とファンタジーの“異世界”がひとつの物語に融合する。さあ読者諸君、仮面の男と冒険の旅に出かけよう! ――裏表紙裏より
ファンタジーの世界で推理モノをやってしまおう、という大胆な試み。しかし頑張っているとは思うが、この二つの組み合わせは相性が良いとは感じられなかった。
問題は上遠野浩平の作風に有ると思う。彼の作品は作者独特の哲学のような言葉が散りばめられているのが特徴だが、それで読者はお腹一杯になってしまい、肝心のトリックの部分に関心が行かなくなってしまうのである。
しかしこの組み合わせには可能性を感じた。例え舞台がファンタジー世界であっても、きっちりとした世界設定が為されていれば、現実感が必須な推理モノも不可能ではないと思うからだ。もう少し他の作家が手を付けても良い分野だと思う。
ミステリーとして合格点が与えられるようになった二作目。
第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章 第七章 第八章
城。それは無為にして空虚なる巨大な骸。
世界を蝕んだ魔女の悪意の果てに、その城塞は百万の命を吸い、千万の呪詛を喰らって造られた。
事件は、荒野の中心に聳えるこの悪夢の巣窟に、魔導を極めんとする者どもが集いしとき起こる。
呪いとしても不条理。魔法としても不可解。殺戮としても異常――
数奇にして非情なる謎の果てに、したたる血さえも焼け爛れる、底無しで出口のない連続大量殺人の惨劇が幕を開ける―― ――裏表紙裏より
前作ではミステリーとしては納得の行かない出来だったが、今作ではしっかりとミステリーになっている。犯人当ては強引としか言いようがないが、そこに至るまでの過程は紛れもなくミステリーサスペンスだ。仕掛けられた叙述トリックもまずまず。
登場人物の中で意外と健闘していたのがゾーン・ドーンだ。本来であれば端役としか思えない設定をされておきながら、力強く存在感を主張する。彼の“人柄”も好感が持てた。それだけに終盤での「……いや、それはちょっとおかしい」という台詞では痺れた。
二作目にして初めて、ファンタジーとミステリーの融合への可能性を感じさせる作品と言う事が出来るようになったのではないだろうか。
事件との関連性が薄いエピソードはマイナス要因。
第一章 殺人 第二章 包囲 第三章 砲撃 第四章 沈黙 第五章 魔獣 第六章 不屈 第七章 敗北
海賊。――それは常に奪う側に立ち、奪われる側には決して立たぬ者。
魔法が文明を支配する世界の中で、海賊ムガンドゥ一族に略奪される危機が訪れる。全面戦争も辞さぬ強大な魔導艦隊が彼らに要求するもの、それは完全密室の中で起きた殺人事件の容疑者だった――全世界が緊張する中で海賊は一人の女を呼ぶ。その名はレーゼ・リスカッセ。そして彼女には、仮面を付けたとても奇妙な友人がいて――この世で最も美しい死体と、三代に亘る一族の歴史をめぐる因果の先に待つものは勝利か敗北か、それとも――? ――裏表紙裏より
ミステリーとファンタジーの融合を図るシリーズ第3弾。殺人事件は第一章で終わらせてしまい、後は謎解きや謎に包まれたムガンドゥ一族の歴史紹介に終始する。
ミステリーとしては前作よりもさらに完成度が高まったように感じる。ただムガンドゥ一族の回想シーンが多過ぎ、それが事件とは直接は関係していない為、密度が薄くなってしまった印象が有る。ムガンドゥ三世の魅力が十分に伝わり切らなかったのもマイナスか。
何やら中途半端な形で終わってしまった一つの貴重な舞台。
序章 禁涙境の最期 第一章 希望街の殺人 第二章 幸運街の惨劇 第三章 無用街の抗争 第四章 月光祭の怪人 第五章 天秤塔の下で 終章 禁涙境の黎明
涙。――それは誰もが流すもの。たとえ禁じられても、こらえきれず溢れるもの……
魔導戦争の隙間にあるその非武装地帯には、見せ掛けと偽りの享楽と笑顔の陰でいつも血塗れの陰惨な事件がつきまとう。
積み重ねられし数十年の悲劇の果てに訪れた大破局に、大地は裂け、街は震撼し、人々は喪った夢を想う……
そしてすべてが終わったはずの廃墟にやってくる仮面の男がもたらす残酷な真実は、過去への鉄槌か、未来への命綱か……? ――裏表紙裏より
「涙を流してはいけない」と言う禁涙境の成立から崩壊までを、時系列をごちゃ混ぜにして描いた作品。登場人物も数多く存在し、また複数の時代を跨っているキャラクターも多い為に、物語の整理が大変である。その割にはアッサリとした結末を迎える。他作品との膨大なリンクに幾らニヤリとしても、読後の物足り無さは拭い切れない処だ。
最も大きな問題は、序盤から語られる“残酷号”という存在の本質が何なのか、殆ど語られない事だ。次回作のタイトルが早くも『残酷号事件』と決定している事から、真相はそこで明らかとなるのだろうが、それならば物語の中盤から後半に掛けて少し登場させるだけでも事足りたのではないか?
結末は「取り敢えずミステリーの形式を採った」という感が有り、どちらかと言うと『ナイトウォッチ三部作』に近い造りをしている気がする。そもそも「涙を流してはいけない」と言う禁涙境のルールが活かされていないのには、違和感が大。
結局の所、この物語は単体としては完結していないし、しかし次回作に直接繋がって行くとも思えないという点で、非常に残念な構図となっている。局所的には持ち前のモヤモヤ感を楽しめるので、そこへの期待は裏切っていないのだが。何にせよ、推理小説を読むというよりは、禁涙境という舞台を楽しむつもりで読んだ方が良いと思われる。そういう意味では、もっともっと長い作品の方が評価は高まったかも知れない。
――
主人公のヒロインへの怒りが新鮮。
プロローグ 1. 遭遇、そして亡命 2. 独立遊撃小隊 3. 水柱 4. “天”の殺戮 5. スーパーアドバンスト 6. 再会 7. 二人 8. プルートゥ 9. 根こそぎ
僕はバード・リスキィ。僕が生きているのは、奇蹟軍と枢機軍が果てのない戦争をいつまでも続けている世界。特殊能力者“奇蹟使い”である僕と妹のアノーはこの愚かな時代を変えるべくある計画を実行したが、それは僕らの予測を超え、戦場で敵同士として出会った若者と少女の数奇な運命を導くことになる。少女の名は夢幻。彼女は十七歳の戦略兵器。そして若者は報われぬ一兵士に過ぎなかったが、実は彼、トモル・アドこそが僕らの戦争世界の運命を握っていたのだった。――これは戦い殺しあい、出会ってすれ違う人々と夢をなくした機械達の叙事詩。悪夢と未来を巡るこの凄絶な舞踏会から、僕らは逃れることができるのか……? ――表紙裏より
登場人物一人一人が自分自身の信念を持ち、そしてそれを貫いている事に好感が持てる。リスキィ兄妹に関しては計画の詳細など疑問の残る部分が多いが、全体的には良くまとまっており、一つの作品としてしっかりと成立している。
秀逸だと感じたのは主人公トモル・アドがヒロイン夢幻の圧倒的な強さを見て、怒りを爆発させるシーン。確かに「彼ならばそう行動するだろうな」とは思うのだが、なかなか考え付けるシーンではないと思う。
続編が書かれるという話も有る。もしそれが本当なら楽しみだ。
“強さ”に対する考察。分かり易くはあるものの、少しピントがずれている気がする。
T. 真空を視る U. 生死を視る V. 境界を視る W. 間隙を視る X. 夜を視る Y. 星を視る
あんたは“本当の空っぽ”というものがどんなだか理解できるか? 底無しの空間が永遠に広がる絶対真空に放り出されることなんざ、想像もできねーだろう? だが只の学生のはずの俺、工藤兵吾はその虚空で戦争するハメになった。無限に襲いくる敵を、俺が駆る超光速戦闘機で倒さねば人類は終りだというのだ――混乱する俺の前に現れたのは、悪夢のような幻影と、人間に科せられた苛烈で空虚な現実だった。現実と超未来、果てなき宇宙と揺れ動く少年の想い。ふたつでひとつの、近くて遠いおぼろな夜空の戦記。 ――裏表紙より
「自己とは何か?」的な展開かと思いきや、テーマは全く異なる作品。強いて言えば「強さとは何か?」か。
“人類史上有数の戦闘の天才”を主人公として採用する辺りが上遠野浩平らしい。内省的なシーンは有るものの、基本的にはそれを突き放して物語を紡ぐ。“虚空牙”という絶対の存在を前にして、“強者”はどのように立ち向かうのか――これが全てと言って良い。
そういう意味では終盤での虚空牙との会話は重要な場面だ。そこから導き出された結論は少々拍子抜けな印象だが、分かり易くは有る。ただ、その後の虚空牙の対応には疑問。結局は虚空牙は人類を全く理解していないのではないだろうか。
より抽象化したテーマに対して、明確な結末を与え切れなかった。
T. 蜘蛛の巣の上で U. 澱んだ霧の中で V. 冷たい月の下で W. 夢と消えるまで
ひとりの少女が世界に疑念を抱き始めたとき、その“ほころび”は始まった――あなたは現実と夢の違いについてどこまで知ってるかしら? 美しい月の上では血みどろの果てなき戦争が繰り広げられ、平和な時代は凍りついた悲しい夢ではないかと考えたことはない? すべてが虚偽と弱気な後ろ向きの意志で形作られた世界の中で、あなたは自分自身の“心”がどこにあるのか、見つけることができるかしら――超未来の地獄としての月世界と、不安に揺れる現実とを行き来する、無慈悲ですこし悲しい虚ろな夢の物語。 ――裏表紙より
虚構と現実という二項対立状態の世界観は前作と同様。但し内容はかなり抽象化していて、作者の意図は読み取り難い。コーサ・ムーグの存在意義があまりに薄く感じられるのは何故だろうか?
テーマが非常に不明瞭で、シーマスというキャラクターだけが強く印象として残ってしまう。『ブギーポップ』シリーズの“イマジネーター”が再登場しているが、彼女の役割もまた理解に苦しむ。
全体としての物語は十分に面白いにも関わらず、抽象性の高いテーマがそれを阻害してしまったように感じる。
悲壮な結末を続け、初志貫徹したシリーズの完結編。
T. 世界は星なり U. 星は虚偽なり V. 虚偽は敵なり W. 敵は空洞なり X. 空洞は人なり Y. 人は世界なり
あんた世界が何で出来てるか知ってる? 常識と適当が重なって出来てると思う? でも、あたしのいる世界はそうじゃない。そこは史上最強の戦闘兵器<虚人>の部品で創られている世界――そしてあたし鷹梨杏子は、その中で同じ人間と殺し合う運命を背負わされてしまった。あたしが戦わなきゃ虚人は動かず、世界も消え去るってね。まったくツイてないわ――
虚空牙の脅威に晒された超未来の、光も差さぬ太陽系最外縁空域で幻想の世界に閉じこめられた、ちょっと怒りっぽい少女が辿る、ひとりぼっちの宇宙戦争奇譚。 ――裏表紙より
『ナイトウォッチ三部作』の最終巻。全体としては前作『わたしは虚無を月に聴く』よりも抽象性を抑え、第1巻である『ぼくらは虚空に夜を視る』に近くなった印象。
しかしながら、作品のテーマすらも第1巻と同様になってしまった感が否めない。終盤で工藤兵吾が現れる事からも、それが読み取れる。今まで以上に直截に言及してくれるのは良いのだが、本質的には同じ事を言っているだけな気がする。
ただ物語は圧倒的に面白い。流石に作り方が慣れていると言うか、これだけテーマ性の高い作品を他の作家が書いたら、面白くは感じないだろうなぁ、と思う。
それにしても『ナイトウォッチ三部作』は最後まで悲しい結末だった。最後くらい、もう少し大きな希望を残して欲しかったような……。
推理モノとしてはイマイチ。
第一章 しずるさんと唐傘小僧 第二章 しずるさんと宇宙怪物 第三章 しずるさんと幽霊犬 第四章 しずるさんと吊られた男 はりねずみチクタのぼうけん
「ねえ、よーちゃん――この世界には不条理としか思えない謎がいくつもあるわね?」
しずるさんはそう言うけれど、私には彼女こそ、この世で一番謎めいてみえる――何年も病床にありながら、とても綺麗で、この世の誰よりも聡明で――どんな不可解なおぞましい殺人事件の数々も、彼女の前では只のごまかしになってしまう――妖怪化したり、宇宙人に狙われたり、幽霊犬に襲われたり、吊られたりする死体の謎を病室から外に出られない少女の推理が解き明かす、これはすこし不気味で、かなり奇妙で、ちょっと切なげな、少女たちの不思議な冒険をめぐる物語です―― ――裏表紙より
安楽椅子探偵モノの短編推理小説。上遠野浩平は『事件』シリーズでも推理モノに手を付けているが、今作は全く異なる作風である。どちらかと言えば普通のライトノベルっぽく、主人公の性格以外は上遠野浩平らしくはない。
全部で4つの短編が収められているが、推理小説として読んだ場合、どれも合格点を与えられるような出来ではないと思う。適宜、挿入された「はりねずみチクタのぼうけん」も悪くは無いが、意図はイマイチ不明。
次巻が出るとしたら、もう少し主人公二人の少女自身について掘り下げるようなエピソードが欲しい。
推理小説ではなく、二人の少女の雑談。
第一章 しずるさんと吸血植物 第二章 しずるさんと七倍の呪い 第三章 しずるさんと影法師 第四章 しずるさんと凍結鳥人 はりねずみチクタ、船にのる
「ねえしずるさん、密室ってなんなのかしら?」
「そうね、よーちゃん、それはきっと、どんなものでもごまかせると思い込んだ人間の、つまらない錯覚なんでしょうね――」
白い病院にずっと入院中の少女と、その友人のこの二人は、今日も今日とて退屈しのぎに不思議な事件を追いかけています。それは人の血を吸ってミイラにしてしまう吸血植物の謎とか、七人の一家を皆殺しにしたという七枚のカードに秘められた呪いの秘密とか、死んだはずの人が祭りの中で同時に別々の場所で目撃される怪奇とか、鳥のように空飛ぶ怪人の話とか、奇妙奇天烈な怪事件ばかりです。しかもそれらは、全部“密室”の事件なのです――扉も壁も鍵も、部屋そのものさえないのに“密室”って? これらの不可思議な事件を、彼女たちはどうやって解き明かすのでしょうか――ひとりは病室から一歩も出ないのに? ――表紙裏より
前作の感想で「次巻が出るとしたら、もう少し主人公二人の少女自身について掘り下げるようなエピソードが欲しい」と書いたが、それに対する言及は全く無く、寧ろ神秘性を増した感すら有る二人の少女の物語。そう、これは推理小説ではなく、“しずるさん”と“よーちゃん”という二人の主人公だけの物語なのだ。
ミステリーとしてはやや現実感を増した代わりに、ちょっとスケールが小さ過ぎる事件が多いのが残念だが、短編集ではそれも仕方ないのかも知れない。取り敢えず“よーちゃん”の苗字が気になる。『ブギーポップ』シリーズ辺りと何か関係しているのだろうか?
「はりねずみチクタ、船にのる」は完全に幕間的エピソードに格下げとなった感じだが、まぁ悪くは無い。一つ一つが幾らなんでも細切れ過ぎる気はするが。
それにしても、あまりにもゴシックロリータ調の表紙装丁は、どうにかならないものだろうか……。
素人そっちのけの完全上遠野ワールドが大展開。
T U V W X Y Z
十七歳の僕は皇帝。でも自分が偉いという気は全然しない。綺麗で優しい婚約者のユイ姫ともぎくしゃくする毎日。伝統と義務ばかりが重たく、自分がしたいことも見つからない……そんな僕が憧れるのは、かつて全世界を相手に戦ったという美しき性別不明の戦鬼ルルド・バイパーだった。だがその子供っぽい憧れが、やがてこの世のすべてを揺るがす混乱に発展しようとは――詠韻文明と呼ばれる奇妙な物理法則に支配される幻想の世界に滅亡と崩壊の陥穽が開くとき、若き皇帝は決断を迫られる……絢爛たる魔人と、容赦なき機械と、揺れ動く少年少女の心が毒蛇の如く絡み合う、これは無為無策な夢物語の顛末――。 ――表紙裏より
読者が最初に持つであろうルルド・バイパーのイメージを悉く裏切るのは作者の意図通りか。しかしちょっと期待外れな裏切り方な感じがする。
ローティフィルドの成長物語的な色合いが強い本作だが、それに対するバイパーの影響が小さいように感じられる。上遠野浩平は脇役を引立たせるのが巧いが、今回は絶対的な存在である筈のバイパーですら埋没してしまっている。『ブギーポップ』シリーズの死神のような役割を果たせていないのである。
じゃあそれだけ脇役が魅力的だったのかというと、それにも疑問符が付く。1冊という分量に設定が詰め込まれ過ぎて、それが各キャラクターに充分反映されなかった。リムリア・カミング・ペルの3人は、もっともっと魅力を引き出せたのではないだろうか?
しかしこれだけSF色の強い作品で、まさか日本の政治体制や国民性の批判を行うとは思わなかった。この意外性は大きく評価できる。
『ナイトウォッチ』シリーズを読んでいないと意味不明な台詞が多数出て来るのは如何なものかと思った。この作者としては、あまりメジャーな作品ではない筈なのだが。
不安定で、曖昧で、もどかしい物語
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<生命と同等の価値のある物を盗む>
奇妙な予告状が届いた高級ホテルの一室で、強大な権力を持つ老人の影武者が殺害された。そして、厳重な警備の中、なぜかキャンディがひとつ失くなっていた。サーカム保険の調査員伊佐俊一と千条雅人は、“ペイパーカット”の仕業と認定。傍目にはどうでもいいとしか思えない物を盗み、同時にその人の命を奪う――謎の怪盗を追う二人は、同じ予告状が届いた巨大ホールへ向かう。五日後に開かれる天才女性歌手の追悼ライブで怪盗が何を起こすのか!? ――裏表紙より
あなたの“生命と同じくらい大切なもの”はなんだろうか? 自分で重要だと思うものは実は大したことなくて、普段は無視しているものが真に貴重だったり、生命は地球より重いというけれど、簡単に失われてしまったりもして――人の意志は紙切れ一枚の重さもないときもあるし、人の心の価値というものは、実際どのくらいのものなのだろうか……という訳で、これはそのことを疑問に思う何者かについての物語である。その研究者と、求めるものを未だ知らぬ男と、心をなくした人形と、未来を想えぬ者と、夢を失った者たちと――生命と同等の価値ある物を巡る、これは喪われた歌についての物語――そして誰にも奪えぬはずの宝を盗む“怪盗”の……。 ――表紙裏より
良くも悪くも上遠野浩平らしい一作。何となく不安定で、曖昧で、もどかしい感覚を植え付けて来る作品である。結局の処、真相などは大した事ではなく、それに至るまでの過程の方が寧ろ圧倒的に重要だという、そういう物語である。
だから読み終わった後になって「要は何が言いたかったんだろう?」とか考えてはいけない。もしそういう事を考えたいのならば、読んでいる真っ最中に、それを済ませねばならない。――結末は不安定で、曖昧で、もどかしいのだから。
ミステリーにも、第二のビートにも化けられる資格を持つ。
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<あの事件は終わっていない――>
私立探偵・早見壬敦は、禿猿山で出会った不思議な人物から謎の言葉を聞く。杜名賀家の離婚問題調査で長女の過去に興味を抱き調べている時であった。その山は、二十年前一家を襲った惨劇の舞台だったのだ……。一方同じ頃、杜名賀邸では庭が爆破され、怪盗“ペイパーカット”の予告状が発見される。神出鬼没の怪盗を追うサーカム保険の調査員伊佐俊一と千条雅人が現場に急行、生命と同価値のものを奪う怪盗の標的が早見ではないかと不安を抱くが……。 ――裏表紙より
それはきっと些細な、かすかな雑音にすぎないのだろう。でも、その音はいつでも耳の奥にこびりついている……誰にでもある、忘れてしまいたい想い出。いっそ綺麗さっぱりなくなってほしいのに、でもなんとも思わなくなったらきっと寂しいのだろうな、と思うような――というわけで今回はそういう記憶についての物語である。古来より因縁の続く山で二十年前に起きた残虐な殺人事件の謎と、生命と同価値の宝を盗む怪盗、それを追う者と機械が絡み合う混迷の中、人々は何処に真実を見つけるのか。心の中で鳴り響く異音は不協和音となって軋みをあげて、そしてそれを静かな音楽にしようとするのは不思議で奇妙な“私立探偵”で――。 ――表紙裏より
曖昧だった前作と異なり、かなり分かり易くなった今回の事件。ややミステリーの構図を整え始めたが、こうなると上遠野浩平はミステリーだけで3つのシリーズを持つ事になる。やや『事件』シリーズの雰囲気に似ている気がする。
しかし何と言っても大きいのは、いきなり『ブギーポップ』シリーズとの接点を持ち始めた事である。確かに世界設定は共通の物だったが、これはかなり驚きだ。ただ今作自体には大きな関わりは無い。これからどの程度までリンクさせていくのか、興味は有るが。