カフカという作家の心の闇を映す鏡のような作品。
変身 ある戦いの描写
平凡なセールスマンのグレゴール・ザムザは気がかりな夢からさめたある朝、一匹の巨大な褐色の毒虫と変わった自分を発見する……。非現実的な悪夢をきわめてリアルに描き現代人の不安と恐怖をあらわにした傑作中篇小説。 ――裏表紙より
「変身」は僅か100ページ足らずとは思えぬ程の細かな描写が行われ、そして何か――ある意味で作者の悲鳴のような声が聴こえて来そうな作品である。そこに腰を据える閉塞感や焦燥感、或いは絶望感といった様々な負の感情を、過剰な演出は一切排除して描いた主人公の奇妙な日常の始まり。そして悲劇的な結末に、その上に塗られたハッピーエンドとの対比。ややもどかしい展開部分も有るが、やはり“名作”と呼ばれるに相応しい作品である。
「ある戦いの描写」は非常に観念的な話。一種の内面的精神世界を描いているように感じるが、あまりにも説明的な文章が少ない為に、しっかりとした確信は得られない。原文からそうだったのか、訳した際にそうなってしまったのかは不明だが。まぁ万人に薦められるような作品ではない事は確かだが。