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SKIM OVER STORY 第2話『仔猫2』

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 ――1990年10月6日(土)

 小学校が終わって帰宅しようと校門を越えた所で、背後から急に声を掛けられた。悟だ。私の可愛い弟。
「姉ちゃん、一緒に帰ろ!」
 私は頷き、そして再び歩き始めた。が、さして進まぬ内に、悟が忘れ物をしたと言って教室に戻って行ってしまった。
「先に行ってて」と言われたので、私はゆっくりと自宅に向かった。
 途中、学校近くの空き地で何人かが争っているのを見掛けた。一人はバットを振り回しているようだ。ただの喧嘩にしては、物騒過ぎる気がする。それとも、これくらいが彼らにとっての普通なのだろうか?
 どうも小柄な一人が集中的に攻撃されているらしい。イジメ、というヤツだろうか。
 そして私はそれを止める事もなく、何も無かったかのように、その場から離れた。変な事に巻き込まれたくなかったし、私一人で何か出来る訳でもない。
 ――私は「イジメはいけない」という安っぽい、しかしそれでも大切な正義感すら失くしてしまったのだろうか?
 失くしてしまったのだろう、と思う。そして、こうも思う。
 ――私は、いつからこんなにも子供じゃなくなっていたんだろう?
 そんな自分に対して何処となく不気味さを感じている現実に、私は気付いた。
 同時に、全く同じ事を8日前にも考えていたという事実を、私は認識した。
 何故か自然と笑みが零れた。

 空を越えて赤と青が混ざり合い、それは異質な存在へと変貌し、そして――
 あぁ、あぁ、なんて素敵で綺麗で……なんて醜い。そして私は――

 突然、私の視界に何かが飛び込んで来た。――猫だ。仔猫。先週に悟が拾って来たのとは、種類が違うけれど。
 その小さく憐れな存在は、しかし私を塀の上から泰然と見下ろしている。そして一つ、大きな欠伸。
 私が静かにジッと見詰めていると、その仔猫は塀の向こう側に飛び降りて行ってしまった。
 私は猫が嫌いだった。猫は気紛れな動物だと聞く。それがなんだか自分と同属な気がして――堪らなく、嫌。
 私は――きっと私は、誰も何も好きになれないんだ。人も、動物も、何もかも。好きになる資格も無いんだと思う。
 全てが美しく――同時に穢らわしく感じてしまう私には、きっと無理なんだ。
 赤と青。それが大空で混ざり合ったのが、私――

 結局、私が家に着くまでに悟が追い付いてくる事は無かった。忘れ物が見付からないのだろうか? それとも――
 純粋な悟……正義感の強い悟――あぁ、そうだ、きっと悟はイジメを見逃したりなんかしない。私とは違って。
「大丈夫、かしら……」
 少し心配になると同時に、何だか安心した。私がどんなに変わっても――どんなに子供という枠から逸脱しようとも――彼が私の可愛い弟である事に、変わりは無いのである。


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