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『蜂』シリーズ6 〜姉妹を2人助けられるなら自殺する本能

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働き蜂は「子供を産まない性質」と「自らを死に追いやる形質」という、2つの不幸を生まれながらに背負っている。「子供を産まない性質」については『蜂』シリーズ3で書いた。では「自らを死に追いやる形質」とは何か?

働き蜂は外敵に対して毒針を使って防衛する。しかし、その毒針には沢山の反しが付いている為、敵の身体に針を打ち込むと自分の体から針が引き千切れてしまい、その蜂は死んでしまう。この働き蜂の自己犠牲行動は進化論を唱えたダーウィンにも解けなかったが、近年発達してきた行動生態学という学問により、この問題に解答が与えられる事になった。

オックスフォード大学のハミルトン教授は1964年に公表した学位論文で、「ある個体Aが働き蜂として働く事によって子孫を残さないとしても、Aと同じ遺伝子を共有している血縁者Bが、より多くの子孫を残せるのであれば、その遺伝子はBを通して子孫に広がり得る」という考え方を打ち出した。ハミルトン教授は直接自分の子供を通しての遺伝子の伝わり方に、血縁者を通しての間接的な遺伝子の伝わり方を加えた物を包括適応度と呼んでいる。

この考え方に依れば、働き蜂は自己の子供を残すか、血縁者の子供を残すかの選択を迫られる事になる。このような選択を血縁選択と言う。しかし既に説明したように、働き蜂は女王蜂の恐るべき陰謀により子供を産まない。従って強制的に血縁者の子供を残す事になる。この場合、子供を産む血縁者とは女王蜂の事であるから、働き蜂は女王蜂の為に死ぬ事を、女王蜂によって強制されている事になる。改めて女王蜂の恐ろしさを思い知らされる。

ハミルトン教授の考えを詳しく説明しよう。

或る個体αが血縁度γの血縁者に利他行動を行い、その個体自身の適応度をΩ減少させたとしても、結果的にその利他行動によって受けた血縁個体の適応度がそれを上回るφ増加し、その収支決算が0より大きくなればαの示した自己犠牲的性質は後世に伝わる事になる。つまり、φγ−Ω>0を満たせばαの死は無駄にならない、という事だ。

例えば利他行動を受ける血縁個体がαの姉妹だった場合、血縁度は1/2だからφ/Ω>2ならば、その利他行動に適応意義が生じる。これは外敵に自分の毒針を刺す事で自分が死んでも、姉妹が2匹以上生き残るならば、それは自分にとっても有利となるという事を表している。

ところでφγ−Ω>0の式を考える際に重要な血縁度γだが、ミツバチの血縁度の算出方法は複雑である。これは特殊な性決定様式の為である。ミツバチは受精卵が全てメスになり、未受精卵がオスになるのである。即ち、オスのミツバチには父親がいない。これが何を意味するのかは、もう少し血縁度について詳しく知らなければならない。これについては次回に説明する。


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